Xen0gl0ssia

退学浪人の闇を切り裂いた元高専生のブログですが技術系の文とかとかそういうのはないです。

魔特六課八咫烏 Incognito Files 近接戦闘訓練の巻

 本作品はVRChat創作グループ「神祇省公安対魔特務六課 八咫烏」の二次創作作品です。

 


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円形の訓練場の中央に、少女達が集っている。

少女たちは準備運動をしていた。全身の筋肉を伸ばし、これから行う運動に備えている。

少女たちの様子を、円錐状の側壁に描かれている八咫烏を象った紋章が見守っている。

ここは魔特六課八咫烏、その地下訓練場だ。

「おーし、お前ら、準備運動は済んだな」

左目に眼帯をした桃色の髪の女が、少女達十数名に声を掛けながら訓練場に入って来た。背には刀を携え、ロッカーを乗せた台車を両手で押して、少女達の前にやってくる。

声を掛けられた少女達は一列に並び、桃色の髪の女の前に立った。全員が同じ様式の、ロービジブルなジャケット姿をしている。その目は期待が半分、不安が半分と言った様子で、桃色の女に注がれていた。

「よし、今日の訓練は昨日伝えた通り、近接戦闘訓練。各々好きに獲物を持って、打ち合う――ま、分かりやすいだろ」

そう言って桃色の髪の女は、台車で運んできたロッカーを開けた。中には刀、剣

、槍――といったように様々な武器が所狭しと並べられている。

「こっから好きなのを選んでいい。ま、今まで基礎的な訓練は三八式でやってるだろうから、迷ったら刀でいいんじゃねぇかな」

「はい、真希島教官」

という声が響いて、少女達の中の一人から手が挙がった。

まるで学校だな、まぁ、アタシらの時も対して変わんなかっただろうけど、などと思いながら、真希島と呼ばれた女――真希島カンナが挙手をした少女に向き直った。

「はい市南、なんだ?」

「その、相手は誰なのでしょうか。私達でペアを作るのか、それとも真希島さんがお相手するのですか?」

「あぁ、それなんだけど――」

と真希島が言ったところで、訓練場の扉が開いた。重厚な防弾扉の先には、小柄な女性の姿が一人。そのまま駆け足で真希島と訓練生達の方へと向かう。

「ごめんなさい!遅れました!」

「おう、まぁいいさ、ちょうど今から紹介するところだったしさ」

真希島が答え、少女たちの方へと向き直る。

「コイツが今日の訓練相手、松岡邦子だ。アタシらの中だとコッコって呼ばれてたりするな」

紹介されたコッコが、訓練生に向かって一礼する。釣られて訓練生達もコッコに礼を返した。

「本日の敵役を務めます、松岡です。主に捜査係で働いていまして、諜報係を兼任しています。よろしくお願いしますね」

そう言って、コッコはたおやかな笑みを浮かべた。

訓練生達の間に少しの困惑が生まれる。戦闘訓練だというのに、怪異の調査を担う捜査係の人間が仮想敵役として来たことに違和感を覚える者が多数だったからだ。

その困惑を、カンナが受け止めた。

「コイツは捜査係と諜報係がメインだが……前線に出たがるヤツでよ。だからアタシたちは徹底的にシゴいた。怪異とやりあってもそうそう死なねぇくらいにはな。ある意味ベンチマークみたいなヤツだ」

つまりそれは、”彼女くらい強くなければ、最前線で戦うことができない――”と、訓練生達たちは受け取った。

「つーわけで、あれだ、コッコを超えられるよう頑張れよ、ってコトだ、ヒヨコ共」

訓練生達を前に、カンナがにぃ、と笑いかけた。








訓練場に、二つの人影が動き回っている。

円形の訓練場は側面の壁が外側に向かって傾斜しており、さながらすり鉢のような構造だ。

円形の訓練場の中心部にて、コッコと一人の少女――先ほど、カンナに質問した市南カエデだ――が、各々の獲物を手に戦闘を繰り広げていた。

コッコが手にした銃剣付きの模造小銃を、カエデに突き込む。カエデはその一撃を払い、間合いを詰めようとするが、再度繰り出された突きに進路を阻まれ、その足を止めた。

その隙にコッコは半歩間合いを取り、自身の適正な距離を取りなおす。

すでに十数名の少女の内、二人を残して戦闘は終わっている。結果はすべて、コッコの勝利だ。訓練生たちは全員が高強度の戦闘任務に対応する警備係志望というわけではないが、八咫烏の厳しい訓練を潜り抜けてきている。その彼女らが、戦闘特化ではない隊員一人に全員黒星をつけられている。

カエデは、最後の二人の内の一人だ。彼女自身の志望は警備係。

実家が神職の彼女は、幼少の頃から怪異について知識があった。家の者が怪異と相対しているということも知っていた。しかし、カエデは当初から八咫烏志望だったというわけではない。

自身が怪異討伐にあまり適性が高くないというのは知っていた。だから、普通の神社としての家業はともかく、怪異討伐という面では別の人間に任せるのだろう、と思っていた。

だが、彼女には妹がいた。それも、霊力保有量も霊力操作も、桁違いに優れた妹が。

自然、親や親族の目は妹に向けられた。それによって、カエデ自身が差別されたような記憶はない。だが、妹の未来が、怪異と戦うことだけになってしまうかもしれないというのは、彼女には受け入れられなかった。

だから、妹の為にも自分が戦えるようになる必要がある。そんな思いでカエデは、八咫烏の門を叩いた。

そんな自分だから、目の前のコッコは良いケースだ、とカエデは考えている。霊力保有量も多くはなく、行使する術式も箱型の結界を生成するというもので、特段強力というわけではない。自身に共通する面が多いと感じる。

だからこそ、乗り越えなければと思う。一瞬だけ息を入れ、再度間合いを詰めるために前進する。

相対して思う、決して早くはない、決して鋭くはない、決して重くはない。

ただ、ただひたすらに遠く感じる。そんな思考を頭に置きながら、カエデはコッコの銃剣を受け流しながら隙を伺う。

今、カエデの手にあるのは三八式退魔刀を模した模造刀だ。刃は落とされ、セーフティとして危険な打突時にはストップがかかるような訓練用の術式が施されている。その全長は90cmほどで、刃渡りは70cmほど、一般的な日本刀のそれと言っていい。

一方で、コッコが使う獲物は長い。銃剣付きの模造小銃は、一般的な銃剣道で使われるものではなく、コッコが使う村田銃を模している。その長さはおよそ170cm。彼女の身長を上回るリーチが、感じる遠さを作り出す一因ではある。

だが、それだけではない。集団戦での槍衾や銃剣突撃ならばともかく、今は一対一の相対だ。故に一般論として、槍は長さを持て余す。相手の攻撃を見切り、払って懐へ入り込めば小回りの分こちらが有利になるのは確実だ。

――だから、それをさせないようにしている。

シンプルな結論だった。コッコは払うような攻撃をしない。攻撃は徹底して突きを主体としている。最小限で最大限の一撃を繰り返す。そこに隙を見出す必要があるが、こうも徹底されるとうまくは行かない。

さらに言うなら

――速度任せは潰される……!

今までに何度も見た光景だった。速度任せに詰めようとすれば、コッコは躊躇なく術式を発動させて、その進路を塞いだ。霊力で出来た箱型の結界。シンプルながら強固な術式は、速度と身体能力任せに突っ込もうとする半妖連中を壁に叩きつけてノックアウトしていた。

だから今のままではこちらに不利なまま、いずれ打突を食らうだろう。それは面白くない、と考える。

何度目かも分からない突きを切り払い、バックステップ。大きく間合いを取る。コッコはそれに合わせて間合いを詰めるが、決して自ら打ちかかりには行かない。こちらが槍の長さを恐れて踏み込みたくなり、かつそれに対してカウンターを仕掛けられる絶妙な間合い、そんな間合いが形成される寸前、カエデは逆手に刀を持った。

一般的な構えではない。剣のリーチを殺すものであるし、そもそも刀剣というものは順手に構えられて最大限の効果を発揮するものだ。故に逆手で行う動作は咄嗟の抜刀程度が一般的で、そのまま切り掛かる技法が残るのはごく一部の流派のみ。

しかしカエデは持ち替えた。逆手持ちにも利点はある。コンパクトな構えになるため超至近距離での取り回しはし易くなるし、体の陰に刀が隠れることで間合いを図りづらくなる。だがしかし、コッコは三八式の間合いなど熟知している上、そもそも超至近距離戦にならない戦い方をしている。

流れが変わった。コッコはそれを察知してか踏み込むのを止め、けんに回る。一挙手一投足で打突できる範囲より3歩遠く、対応出来るだけのマージンを取った。

 

五十嵐マオは分厚い防弾ガラスの前に立ち、長いツインテールを揺らしながら眼下の演習場を眺めていた。

今、演習場は短い凪の時間だ。一連の攻防が終わり、様子見となった時間。

この時間は長くは続かないだろう。両者共、息は整いつつあり、コッコは普段通りに構え、カエデは逆手に模造刀を保持し、睨み合う。

「やっほ、どんな感じ?」

その様子を眺めるマオに声を掛ける人物が居た。二本の角に、快活そうな雰囲気。八咫烏隊員の一人、角館リンだ。

「どうも、リン先輩」

リンが声を掛けると同時に差し出したマグカップのコーヒーを受け取りながらも、マオは階下の光景から目を離さない。リンはマオの隣に立った。

「どう?訓練は」

「今のとこ、コッコ先輩の12連勝です」

「ワオ、流石」

ニコニコと笑いながらリンはコーヒーを啜り、訓練場を見た。

「そろそろ動くね、ね、どっちが勝つと思う?」

「コッコ先輩です」

「お、即答。その心は?」

「コッコ先輩、たかだか2,3か月の教育中の連中に負けませんよ。だって貴女たちが鍛えたんでしょ?『6年生』の貴女たちが」

嬉しいコト言ってくれるね、というリンの言葉は、それより先にマオの「動きます」の言葉に遮られた。

 

「……っ!」

カエデは短く息を吐くと同時に、術式を展開した。狙いはもちろん、コッコだ。

とはいえ、それは自動で敵を狙い撃つだとか、天から流星が振ってくるだとか、そういった類のものではない。そういった術式を操るものもいるだろうが、カエデはそこまで特筆するべき術式はない。

代わりに彼女には、代々受け継いでいる術式、その一端がある。

霊力の残滓を残しながら、彼女は地面を蹴った。狙いはコッコ。真っ直ぐ、愚直なまでの突進。

すかさずコッコは障壁として箱型術式を展開。カエデの体に霊力で出来た壁面が接触する。だがしかし、障壁は溶けて消えるように、霊力を空中に霧散させた。

行ける、カエデは心中で呟く。

彼女の術式「道開き」は、元をたどれば彼女の神社の主神から賜った術式とされている。

その効果は

――指定した地点、対象までの道乗りに存在する害を成すものを払う術式!!

旅の安全を祈願する術式を応用し、彼女は進路上の害を祓う。それは霊力で形成された障壁も例外ではなく、さらに空気抵抗ですら禊ぎ落とす。

さらに彼女は、刀を逆手に持つことで旅人が持つ『杖』に見立てた。これによって術式の純度を上げ、さらなる加速と禊を得る。

カエデ本人ですら、この速度は制御しきれていない。ただ、想定外をぶつければ相手を揺さぶれる。揺れた先にあるのは隙だ。それを刈る。

相対するコッコから目を離さない。確実に捉えるまでは、一瞬たりとも。

コッコは直線から逸れるように連続してサイドステップ。そしてその進路上に術式による障壁を展開する。しかし、この術式は指定した対象に到達するまで効果が切れることはない。曲線を描きながら、カエデはコッコに向かって突き進む。新しく生成された障壁すら、カエデに触れるたびに霧散してゆく。

――行けるッ!!

心中の言葉は、つぶやきから確信へとその確度を変えた。地面を蹴り、さらなる加速を得る。

次の瞬間、カエデは

「!?」

コッコの行動に目を疑った。コッコはこちらに一歩踏み込んできた。カエデの速度にカウンターを狙うかのような全身。想定していた刀のリリースタイミングとズレが生じる。

さらに一歩。その二歩の間にコッコは模造小銃を反転。銃床部分をカエデ側に向けるようにし、短く持つ。

――間に合え……!

想定外のタイミング。カエデは祈るように逆手に持った刀を振るう。が、コッコは短く持ち替えた銃床で、その刀の根元を受け止めた。

――どうして!?

道開きの効力が切れている。本来であれば攻撃ですら祓う術式だ。全霊力を注いだ一撃を受け止められ驚愕に歪む。だが

――間合いの有利は潰した!!

こちらは逆手に握った刀、相手は如何にコンパクトに構えなおしたとはいえ、長大な分余計なモーメントが発生する模造小銃。この距離であれば、それは枷にしかなりえない。

次の瞬間、コッコはあっさり模造小銃を手放した。え、と短く言葉を出す間もなく、カエデの襟元と刀を握った右手を掴む。

次の瞬間、カエデの体は宙を舞い、訓練場の床に叩きつけられた。

「が、は……ッ」

肺から酸素が逃げ、息を吸おうとしても吸い切れない。カエデは喘ぎながらも、立ち上がろうとするが、力が入らない。

その間にコッコはマウントポジションを獲った。圧倒的に有利な状況。そして拳をカエデの顔面向けて振り下ろし――

「そこまで!」

カンナの声で、拳はカエデの眼前で止まった。

 

コッコはカエデの上から退くと、カエデの手を取って上体を起こさせた。

「ゆっくり、大きく息を吸ってください。大丈夫ですから」

そう声を掛けられたカエデは言われたとおりに大きく息を吸って、そして吐いた。徐々に体は酸素を入れる感覚を思い出し、やがて安定する。

そうした後に思い出すのは、コッコの選択だ。こちらの「道開き」に対し、踏み込むという選択。どうしてその選択を咄嗟に取れたのか、カエデはその疑問を率直にぶつけた。

「どうして、踏み込んだんですか。先輩の術式は無効化されてたのに」

「そうですね……」

とコッコはしばらく思案し

「二つあります。一つは、術式発動時の霊力残滓が猿田彦系の散り方だったこと。ここから、移動補助の術式だとあたりを付けました。おそらく、移動の障害を禊ぎ祓う術式ですよね。だから、そうであることを一つ目の箱型術式で確定させました」

は、と思わず間の抜けた声が漏れる。確かに霊力は、個々人の感情や操作によって形を変える。その最もたる例が、恐怖を糧に姿を形作る怪異だ。

だが、その一瞬の霊力の変動を捉え、戦闘の一瞬で判断することは常人のそれではない。少なくとも、ここ数か月で学んだ中には、特定のキットを利用するだとか、K.A.I.N.T.に判断を仰ぐだとかで判別するものとされていたはずだ。

「もう一つは横にステップした時です。その時に、カエデさんは真っ直ぐ突き進むのではなく、私に向かって誘導するかのような軌道をとりましたよね」

その言葉にカエデは頷く。まったくもってその通りだからだ。コッコはその頷きに満足し、言葉を続ける。

「あの時、カエデさんの術式は場所ではなく、私に対して掛けられているのだと判断しました。場所に掛けてるのなら、私の横の移動に対応できてないと思います」

それも事実だ。カエデはまたも頷く。

「だから、私の方に向かってきているのなら……私から接近すれば、カエデさんの想定より早期に術式を終了させられるんじゃないかと思いまして、あえて踏み込みました」

結構博打だったんですよ、とコッコは笑うが、そうではないだろうとカエデは感じた。

これが博打だというなら、私の行動は自殺も同然だ。コッコは、自身の知識と経験から最適解を出した。それは並大抵の努力で為せる技ではないだろう。

「カエデさんも工夫してましたよね」

カエデの落ちていた視線が自然と上を向く。コッコは膝を着いて目線をカエデと合わせながら続ける。

「刀を逆手に持ったのは密着するための他に、刀を杖に見立てることで術式をより強固なものにしてました。旅に杖は必需品ですからね。そうやって工夫することは絶対にいつか役に立ちます。いつか一緒にお仕事できるのが楽しみです」

コッコはそう言って、手を差し出した。カエデはそれをしっかりと握り返した。

 

「ね、これで13連勝。言った通りでしょう?」

ふふん、とマオが得意げに鼻を鳴らしながらコーヒーを飲み干した。

「なるほどねぇ、コッコちゃんはああやって戦うのか」

その声を聞きながらリンは頷く。

八咫烏隊員にとって、怪異の分析は基本的にK.A.I.N.T.に一任することが多い。現場で怪異の出自を自ら考えるよりも、今までの怪異の情報や傾向をすべて集積しているK.A.I.N.T.に任せたほうが正確で速く、隊員は戦闘や偵察に集中できる。

しかし、コッコはそれよりも速く、現場で怪異の情報を分析できる。そしてそれらをタイムラグなく作戦に反映することが出来るのは明確な強みだ。

最も、K.A.I.N.T.による分析を隊員全体に共有するほうがより確実だ。強みではあるが、一芸の域を出るものではない。とはいえ、使えるものはなんでも使うというのは八咫烏隊員として望ましい姿勢であることに間違いはない。

「これは次のも楽しみだな、どうするんだろうね」

「次の相手は……ああ、この子かぁ」

マオが手元のタブレットをいじり、リンが画面をのぞき込む。そこには次にコッコが相対する情報が書かれていた。

「ふぅん、なるほどねぇ。対処法はあるかもしれないけど、割とパワータイプかな」

能力だけで言えば一級品、あまり真正面からやり合いたくはないな、というのがリンの率直な感想だ。だが、マオはそれにも動じない。ツインテールを揺らしながら、彼女は確信を持った声で告げた。

「ま、それでも私はコッコ先輩が勝つと思いますけどね!」

 

訓練場の中央で術式の発動を補助する呪符をケースに補充しながら、コッコは次の相対者を見た。一回りは年下の少女は、しかしその頭に人ならざる獣の耳を持っている。半妖の主流である狐や犬、狼や猫のそれより小ぶりで丸みを帯びた耳を持つ少女は、模造刀を無造作に肩に担ぎながら、コッコの元へと向かってくる。

少女は口元に笑みを浮かべていた。親愛のものではない。獲物を見つけた時の狩猟者の笑み。

「風流タマキさんですね」

コッコはその強者の笑いに対しても臆せず、作業を続けた。呪符に流し込んだ霊力を確認した後、一枚だけ引き抜いた呪符を銃床の肩当て部分に張り付ける。

「なんだ、覚えてるんだ、センパイ」

タマキと呼ばれた少女は、これまで繰り返し呼ばれていたハズのコッコの名前を呼ばずに、歩みを止めた。模擬戦のスタート位置だ。

「えぇ、今日の模擬戦の相手の名前と顔は教えられていましたから。どういう手札があるかまでは、伏せられていますが」

「そうかい、んじゃモノを見るのは初見ってワケだ。楽しませてくださいよ」

「えぇ、楽しみにしています」

コッコはふわりと微笑むと、タマキは面白くないものを見るような目をして舌打ちした。

 

面白くねぇなァ、表情に現れているのと同じ言葉を、タマキは内心で呟いた。

タマキは大人というものを信用していない。児童養護施設時代の大人といえば、子供を怒鳴るか、嫌味ったらしいか、最悪な部類だと、夜中に部屋に入ってくるようなモノもいた。まぁ、そいつにはお灸を据えて二度と顔を出せないようにしたが。そんな状況だから、子供達でも喧嘩が絶えなかった。

大厄災を機にテロ、正確に言えば怪異災害が急増した日本に於いて、児童養護施設というのは常に不足している。それを考えれば仕方のない面もあるが、親を奪われてまで劣悪な環境を押し付けられる謂れはない。

だから大人というのは信用ならない。信用できるのは、自分と、自分を怪異の手から救い上げてくれたカンナの姉御だ。カンナの姉御が信用しているヤツだったらまぁ、多少考えてやらないこともないが。

そこへ来て、コッコが現れた。カンナからも信用されている「大人」。

だが、なんとなくいけ好かない。タマキにとって、それが嫉妬心からなのか、それとも施設時代の大人に通じるモノがあるからなのかはわからない。

それでも、10代も半ば程度の少女が、身の丈に余る己の力を思い切り振り回そうとするには十分な理由になった。

 

「はじめ!」

カンナの開始の合図が拡声器から流れると同時、タマキは霊力を全力で放った。

高速の二連撃は風の刃となって、弾丸の速さでコッコに襲い掛かる。どちらの刃もその切断範囲は長大で、円形の訓練場の直径にほぼ等しい大きさだ。

その上タマキは、コッコの今までの軌道パターンが、基本的に平面であることも考慮に入れていた。

だからこその二連撃だ。一撃目は首を狙い、二撃目は膝を狙う。ほぼ同時に着弾するそれは、コッコの運動能力では避けようがないと踏んでいた。避けるなら、曲芸じみた動きでその二つの刃の間に入り込むか、飛び越えるかだが、そのどちらも不可能だろう。

ならばあの箱型の結界で受けるか?それも無理だろう。この刃は鉄くらいなら切れることをタマキは知っている。

刃がコッコの立っていた位置を通過し、訓練場の壁に叩きつけられた。破片が巻き上げられ、風に巻き上げられて拡散し、粉塵が視界を埋める。

勝った。粉塵に飲まれながらも、タマキはニヤリと笑った。この一撃は霊力の消費が重く、それを二連で放ったことで霊力は底を着いていたが、あのコッコにネチネチと弱点を探される前にケリを付けるのは正解だ、とタマキは考えていた。

だが、終了の合図が聞こえない。カンナのそれまで、の声がいつまで経っても聞こえない。いぶかしむうちに、風の余波が収まっていき、視界が晴れてゆく。

そこには横二列に抉れた訓練場の壁、そして、空中の箱型結界に片膝立ちで立つコッコの姿があった。

タマキに顔が驚きに歪み、次に恥辱に染まった。

コッコは、片膝立ちで模擬小銃を構えていた。その切っ先は、ぴったりとタマキの心臓に向けられていた。

この模擬戦は、近接限定の模擬戦だ。だが、実戦だったら?タマキは勝利の余韻に浸っている間に、その心臓を撃ち抜かれていただろう。コッコの切っ先は、それを静かにタマキに向かって告げていた。

 

「あのガキマジで無茶苦茶やるわね!?」

怒りの声をマオが遠慮なく上げ、後ろでリンが苦笑いしていた。

「あんなん当たったらほとんどのヤツが死んでるっての!わかってんのかしらその辺!!」

模擬戦とはいえ、一歩間違えば人死にが出かねない一撃だ。マオの怒りももっともと言ったところだろう。なんでカンナは止めなかったのか、とも。

だが、リンの反応は違った。

「まぁまぁ、カンナちゃんが止めなかったってコトはコッコちゃんが捌ける一撃って判断だったんでしょ。実際上手いコト避けてたし」

一部始終を、マオとリンの二人は目撃していた。開始の合図が始まると同時、コッコも行動していた。自分の足元に箱型術式を生成し、そのまま自身をエレベーターのように持ち上げる。ついで、もう一つの結界を生成し、そこに飛び移ったのだ。

「やるねぇ、前から高所の移動に活かしてたけど、速くて正確になってる。以前の単独行動がいい刺激になったのかな?」

「なんでそんなノンビリした感想なんですか!?」

「まぁ、だって、私らのころは、ねぇ?」

半笑いのリンを見て、マオは心底震えた。これが、次々と脱落者を出した、創立初期の八咫烏メンバーの貫禄か、と。

 

――まだだ!

タマキはコッコに向かって駆け出していた。

挽回のチャンスはまだある。高所に居る、ということは着地する必要があるということだ。その着地の隙を刈り取りさえすれば、まだ勝機はある。

霊力は回復していない。だが、体力まですべて消費しきったわけではない。半妖由来の瞬発力で、コッコの着地隙を刈り取るために前進する。

だが、それを容易に見逃すコッコではない。タマキの足元に箱型術式を展開。コッコの姿ばかりを見ていたタマキはそれに脚を取られかけ、なんとか体勢を立て直す。そのころにはもう、コッコは地面に着地している。

そしてコッコは地面を蹴った。向かう先はタマキの方だ。速度の乗ったまま模擬小銃による刺突を繰り出す。

「……くッ……!」

タマキはそれを左旋回気味に回避する。体を横に開き、右足を軸に左足を踏み出す。眼前を木でできた模造小銃が通過する。

次の瞬間、タマキの顔面を木銃が打ち付けた。

威力自体は大きくはない。最初の突きから顔面まではわずかな距離しかない。その程度の距離では威力を出すことは不可能だ。だがタマキの不意を打つには十分だ。思わず目を閉じたタマキが目を開くころには、コッコは次の打突に入っている。

次の一撃は脇腹狙いの一撃だ。側面を晒したタマキの脇腹を模造小銃に付けられた銃剣が襲う。

タマキは失策を悟った。自分は右利きだ。つまり模造刀は右手で保持している。左側面を晒すような回避をしてしまったことで、続く一撃をいなすことが困難だ。

「っあぁぁぁッ!」

それでも、タマキは刀を振るった。開いた体を無理矢理に右回転。同時に右の刀を振るい、なんとか模造小銃にぶち当てて軌道を逸らさせる。

――なんとか引いて立て直す……!

今この一瞬しかない。こちらの体勢はぐちゃぐちゃだが、コッコの模造小銃も払われている。次の攻撃を行うには引いて、突き出す二挙動が必要だ。その二挙動の間に一旦仕切り直す。

そんなタマキの考えは、次のコッコの挙動で打ち砕かれる。

コッコは模造小銃を払われた勢いを活かして、一回転。その勢いのまま、バックハンドの横薙ぎを繰りだした。

払われた体勢からの突きは二挙動だが、払いの勢いを活かした横薙ぎは一挙動だ。

二挙動の間に引くことばかりを考えていたタマキは虚を突かれ、右の脇腹にその一撃を叩きこまれた。

「が、は……ッ!」

訓練用の威力低減術式が組み込まれているとはいえ、170cmはあろう模造小銃のフルスイングは、タマキの足元をぐらつかせるには十分な威力を持つ。

目がちかちかとなり、せり上がってきそうになるものを感じながらも、タマキは未だに膝を着いてはいなかった。

コッコの追撃が迫りくる。

 

――それからの戦闘は、タマキの防戦一方だ。

突きだけではなく、今まで使ってこなかった薙ぎも組み合わせたコッコの攻撃は、タマキに休む暇を与えない。それでも、初手の攻防の一撃以外、有効打足りえる打突は入っていないのはタマキの優秀さの現れでもある。

だが、じりじりとタマキが追い詰められているのは事実だ。その証拠にコッコにタマキの刀が届きそうになることはなく、逆にコッコの模造小銃がタマキの肌を浅く擦過して赤い跡を残している。

タマキの頬は赤く、額からは玉のような汗がとめどなく流れ落ちる。息は上がり、脚は縺れる。

それでも倒れないのは意地だ。立っているヤツは、強い。カンナから教えられているそのシンプルな真理は、タマキの中のなけなしの気力を振り絞らせている。

それでも、コッコを攻略する糸口は見つからない。霊力は微量ながら回復しつつあるものの、衝撃波を出そうと構えれば容赦なく突きの連続が襲い掛かってくる。

倒れれば楽になれるのだろうか。否、それは死ぬのと同じだ。これ以上恥の上塗りをしてたまるか。

「タマキさんの身に宿る怪異は、鼬ですね」

ふと、コッコが口を開いた。攻め手は緩まず、しかし聞かせるように言葉を紡ぐ。

「そして風を操る能力を持つ。ルーツは鎌鼬にあるものと思います」

正中線を正確に狙った三連撃。刀を立てて、両手を使ってなんとか受け止める。その攻撃を受けたおかげで、間合いが開く。

「鎌鼬の伝承にはいくつかパターンがあります。曰く、廃棄された鎌に宿るだとか、曰く、風で巻き上げられた破片が傷を付けるだとか」

言いながらコッコは再度間合いを詰める。突きを主体に、不意を打つ目的でコンパクトな薙ぎや切りが入り混じる攻撃だ。対応しきれず、何発かをまともに喰らい始める。腕に、脚に、木でできた銃剣の衝撃が、骨に響き始める。

「しかし、もう一つ、最もメジャーな伝承。近代における鎌鼬の、主流な解釈があります。それは、真空が切断を産むというもの」

破れかぶれに振った刀がコッコに届きかける。コッコは小銃を立て、それを機関部のあたりで受け止め、弾く。空いた胴体に前蹴りを放ち、タマキの胸部を捉える。たたらを踏んで、口の端から汗と涎の混じったモノを吐きだしながら、膝を着く。

終了の合図は、まだ聞こえない。コッコの声だけが、タマキの耳に嫌によく聞こえた。

「まだ、貴女は術式を、霊力を開くことが出来ます。だから」

その先の言葉はない。その代わりと言わんばかりに、膝を着いたタマキに向かって、渾身の突きを放つ。

 

タマキは、引き延ばされたように感じる時間の中で、その銃剣が自身を打とうとするのを見ていた。

思考は纏まらない。コッコが話していたことも、自分のことなのはわかるが、だからなんだと思う。

このまま打たれれば終わるのだろうか。訓練だから、死ぬことはない。でも、これが実戦だったらどうなるのだろう。分からない。

ふと、視界の端に桃色を見た。カンナだ。自分の居た養護施設が怪異に襲われた時、助け出してくれた先輩。彼女に師事したくて、無理を言って八咫烏に来た。

自分の今のみっともない姿を見て、失望しただろうか、嘲笑しているだろうか。

カンナの表情が、タマキの網膜に写った。

笑みだ。

しかし、決して嘲笑などではない。言うなれば、期待の笑み。お前はまだやれる、お前はそんなもんじゃない、と、語りかけるような笑み。

裏切れない、裏切りたくない、と思った。私は、まだやれるんだ。

だって、あの人が信じてくれているんだから。

必死に考えろ、可能性を見いだせ。コッコの言葉も、すべてモノにしろ。

考えたら動け、腕を動かせ、脚を動かせ、体を動かせ。そして何より、自分の中の怪異の力を動かせ。

思考は一瞬にも満たない。反射は一瞬で、それはすぐさま結果として現れた。

ばづん、という音と共に、タマキの体は急加速した。全身を何かに引っ張られるように、コッコの左側面を取るような高速移動。

理屈は今は分からない。だが、今目の前にあるのはコッコの胴だ。

そして手には刀がある。

思い切り振り抜く。

 

コッコはそれすらも想定に入れて動きを作っていた。目の前からタマキの姿が掻き消えると同時に、踏み込んだ脚を軸に左旋回。二分の一の確率で自分から刀に飛び込む危うい選択だが、辛うじてそれは通った。横薙ぎは胴を捉えるが、クリーンヒットにはならない。

だが、決してその一撃は浅くはない。明らかに熱を持ち、そこに一撃を入れられたことを主張してきている。

想定していなければ避けられていなかっただろう、と確信できる良い一撃だ。

そして、その直前の音。

学校の理科室で気圧の実験をする時に聞くような、真空の音だ。

タマキは自らの能力の核心を掴んだ。真空を利用した、引き寄せるような急加速。

思わずコッコの口の端が吊り上がった。やっぱり、怪異って凄い。伝承や人の噂、そうしたものが形となった存在が、その力を顕しながら、今目の前に居る。

それも味方で、友誼を結べる存在である、というのだ。この、なんて心強いことか。

とはいえ、今この瞬間は敵同士だ。友好を深めるのは、そのあとでいい。

コッコは油断なく小銃を構え、タマキに相対する。

 

戦況は一進一退となった。ばつん、という破裂音がするたびにコッコが受けに回り、それを

凌いで一撃を返し、さらなる追撃をタマキが往なす。

ただし、だんだんとそのテンポは早まっていく。

結果として、破裂音をアクセントとした打撃音が、まるで打楽器のセッションのように訓練場に響き渡っていた。

両者共に、疲労の色が濃くなっている。

速度こそ落としていないが、それはお互いに「速度を落とせば負ける」と理解しているからだ。脚を踏ん張り、地を蹴り、腕を武器と連動させて振るう。それを繰り返して、出来なくなった方の負け。

――このままなら、分があるのは私の方ですね。

否が応でも思考を超えなければならない攻防を捌きながら、それでもコッコの冷静な部分は正確な分析を告げていた。それもそのはず、タマキは半妖とはいえ、まだ14歳だ。そして半妖の核たる霊力は、最初の斬撃でほぼ放出仕切っている。ならば、あとは成人し、訓練を積んでいるコッコが勝つのは自明の理だ。

だが、そうはならないだろう。この子だったら、もう一枚手札があってもなんら不思議ではない。

笑う余裕は、ない。だが、タマキのもう一手を待ちながら、打ち合う。

 

同様のことを、タマキも考えていた。

――このままなら、アタシの負け!

やはり最初のミスは大きく響いている。初手の大技自体は、能力を見せれば見せるほど分析をしてくるコッコ相手には間違った選択肢ではないと考えている。が、その後のペースを握られたのは失策だ。

その分のディスアドバンテージをひっくり返せなかったら、じりじりと経験の差で競り負ける。分かりやすくて良い。

もちろん、相手のミスを待つコトもできる。だが、カンナにも一目置かれているような相手が平凡なミスをするとは考えられなかった。

だから仕掛ける方法を見定めている。

幸いなことが一つあった。霊力が、回復を見せつつある。

限界を超えた霊力行使で一段階先の階梯へ至ったのか、あるいは真空の瞬間移動の連続発動に体が慣れてきたのか、それは分からない。

だが、もう一撃、最初の衝撃波には及ばないが、もう一撃だけなら、放てる。

撃てるとは思っていないであろう大技による不意打ち。そこに勝機を見出すしかない。

――やるさ!

タマキは心中で言い放ち、模造刀の柄を右手で確りと握った。

 

変化は、やはり爆音から始まった。

連撃のセッションの中で時折響く真空の音。それが、コッコが引こうとしていた右の足を逆に引っ張った。必然、コッコは足を取られ、背中から倒れ込みそうになる。

来ると思っていた変化だが、コッコは対応しきれない。そのまま背中から倒れ、しかし腕の振りの要領で最低限の受け身を取り、肺から叩きつけられて行動不能になるのを回避する。

即座にタマキは追撃した。右手に持った模造刀による刺突だ。鍔本を握った右手を柔軟に連動させ、それを速度に変換した刺突は、しかしコッコを捉えない。

コッコは倒れると同時に、足元に箱型術式を小さく生成していた。そして、それを思い切り両足で踏み、蹴り伸ばす。頭側に向かって加速することで、刺突を回避。その勢いを利用して足を振り上げ、そのまま慣性に乗り、逆向きのヘッドスプリングで起き上がろうとする。

その瞬間、コッコとタマキの視線が切れた。タマキは決心し、構えた。自身の残る霊力、ほぼすべてを使い切って、放つことを決めた。

コッコが起き上がる。その時には既に、タマキは刀を振るって、風の刃を生み出した。最初の時とは比べるべくもない大きさ。だが、それは確実に放たれた。

そして次の瞬間、ばづん、と爆音が再度鳴った。

タマキは自身の霊力と、周囲の風と、そしてコッコの存在を完璧に感じ取っていた。自身の放った風の刃は速度を調整し、自身の加速の後にコッコに到達するように仕掛けた。

そして自身は、コッコの背後。人間である限り視認は不可能で、そして最も取られると危険な位置。それゆえ、予想もされやすい位置。

だが、予想するならしてみやがれ、とタマキは考えていた。予想して背後の自分に対応すれば、前から風刃が襲う。前に対処すれば、自分がその隙だらけの背中を一刺しする。横にステップして逃れようにも、体半周分のアドバンテージは大きい。まして獲物は長く、取り回しに難がある。

――勝つ!

コッコは今、先ほどまでタマキが居た正面を向いていた。その体は左右にステップしておらず、風刃と相対するような格好だ。

あと一歩、あと一振り。

残る力をすべて振り絞り、タマキはコッコに一撃を届かせようと刃を振る。

「放て」

短い呪句が、コッコの唇から放たれた。

次の瞬間、コッコが腰だめに構えていた小銃、その銃床から、箱型の霊力が立ち上った。

霊力はそのまま、銃床を伸ばす様に伸長し――背後のタマキの鳩尾を、過たず捉えた。

「っ、ぁ――」

声も出せずに、タマキはその一撃を受けて、後ろ向きに転がった。手から模造刀が離れる。

訓練場の壁に叩きつけられたタマキは、いやに澄んだ思考で考えた。

負けだ、流石に、負けだ。でもそれはいい。ちゃんと、全部出しつくした負けだ。次に繋がる負けだ。

尤も、その”次”があるか、今は怪しくなっている。

風の刃は自身の打撃と同時にコッコに当たるように、前後から挟むように放った。つまりそれは、後ろ向きに転がった自分の方向に風の刃が向かってくる、ということだ。

避けなければ、とタマキは考えた。だが、体はぴくりとも動かない。

避けられない。自分は自分の能力で、死ぬ。

恐怖と諦観と、それから少しだけ誇りを感じながら、タマキは目を閉じようとした。

だが、その視界に、さっきから映り込む背中があった。

コッコだ。

「術式、展開……!」

彼女は自身の霊力と呪符のありったけを使って、箱型術式で風刃に抵抗した。

風を乱すための乱杭のような結界、段差を利用した結界、楔のように生成した結界。

そのどれもが風刃の威力とスピードを、わずかに弱めたに過ぎない。

最後に残ったのは、シンプルな壁としての結界。

掻き集めた最後の霊力をすべて注ぎ込み、風刃と拮抗する。

が、青白い箱の結界は、その形を徐々に崩れさせていく。

「無理だ、逃げて、先輩」

「いいえ!無理じゃないです!」

だって――紡ごうとした言葉は、結界が割れ砕ける音に掻き消された。

その瞬間、コッコとタマキは、風の向こうに桃色を見た。

「お前ら、よく頑張った」

桃色は光を増し、桜吹雪めいてその霊力を放出させた。

そして、光が振るわれる。

次の瞬間、霊力そのものが切り払われ、風刃は四散した。

真希島カンナが背負っていた、霊刀・加具土命は、人を傷つけることなく、怪異のみを斬る業物だ。

その力を以て、風の刃だけを切り裂いたのだ。

 

「よっ、無事か?」

風と霊力が収まったあと、カンナはなんてことのないように二人に声をかけた。

「えぇ、なんとか」

コッコは二本の足で立ったまま、にこりとその言葉に微笑を返す。疲労は見えるが、先ほどまで命の危機だったにしては落ち着いており、泰然自若としている。

反対にタマキは、霊力も体力も使い果たしてしゃがみ込んでいた。だが、意識はあるようで、カンナの言葉に頷きを返した。

「そいつは重畳。で、誰か、タマキに肩貸してやれ」

そう言われて訓練生達の中から、カエデが一番先に前に出た。大丈夫?と声を掛けながら、タマキを支えて立ち上がる。

「ありがとう」

タマキは小さい声で、カエデに返した。跳ねっ返りの強いタマキの大人しい姿に、カエデは少しだけ驚いて、それから

「よく頑張ったね。流石私らのエースじゃん」

と返した。

少女の耳が朱に染まる。

「さてと――タマキには悪いが、医務室に行くのはもうちょっとだけ待ってくれ」

タマキとカエデが訓練場の中央から、他の訓練生達が集まっている場所まで下がると、カンナはコッコの方を向いた。

一目見るだけで、コッコは疲労していた。汗はその黒髪を額に貼りつかせ、足元は震えも見える。握力ももう、それほど残っていないだろう。

だが、その視線は一寸違わず、カンナに注がれていた。

視線に答えて、カンナはコッコに言葉を投げる。

「大活躍だったじゃねぇか。訓練生全員相手に勝つとは。そろそろ休んだらどうだ?」

言葉だけを聞けば、労いの言葉だっただろう。だが、カンナも、コッコも、そうは思っていなかった。

「いえ、まだ相手してない人が、残っていますから」

そう言って、コッコは小銃を確りと構えなおした。刃を向ける先は、カンナだ。

今日一番の動揺が、訓練生達の間にざわめきを生んだ。

カンナは、その言葉を聞いて、にぃ、と笑みを深めた。

「なんだ、わかってんじゃねぇか」

そう言って、カンナは加具土命を納めると、反対の手に持っていた模造刀を構え、切っ先をコッコに向けた。

「いいかヒヨコ共、味方は傷つき、自分もボロボロ。対して相手は万全で、しかも格上と来た」

カンナは声を張り上げて、訓練生達に伝えた。

「そんな時、どうするか。従容として死を受け入れるか?破れかぶれに突撃するか?違ぇ、違ぇよなぁ」

訓練生達に理解の時間を与えるために、少しの間があって

「そんな状況でも、味方の後退のために、来るかもしれない援軍のために、今も怪異から逃げてる人々のために、一分一秒でも長く稼いで、稼いで、生き抜く。それがアタシ達だ。そうだよな!!!」

豪!と、物理的圧力すら伴うと錯覚するほどの霊力が、カンナから放出された。訓練生達は驚き、身が竦む者もいる。だが、そんな中でも、二人分の視線は、カンナとコッコから離れない。

「てなわけで応用編、そんな状況で、どうやって戦うか。お手本を見せてくれるのはコッコだ。お前ら、よく見とけよ!」

合図はない。模擬戦だが、模擬戦ではない。限りなく本当の死合いに近いシチュエーション。

コッコとカンナは、お互いに見合った。一瞬か、数秒か、数時間か、錯覚するような静かな時間が流れて

 

――そして二人は、同時に地を蹴った。

スノウドロップ・オーバードーズ

あらすじ:ホテルカデシュ。NYの会員であるエミリアとニーゼ。彼らはペアを組み、裏社会を統べるホテルカデシュの一員だった。

ある日、彼らはホテルカデシュの第六席、ヤスナカに呼び出される。ヤスナカは彼らにロンドンで起きている事態の解決を依頼し、それを受託したエミリアとニーゼは、ロンドンへと飛ぶことになった。

 

※注意:この小説は、VRChat内で行われる洋画風RPイベント「ホテル・カデシュ」をモチーフにした二次創作小説です。

 

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魔特六課八咫烏 Incognito Files 閑話01

 本作品はVRChat創作グループ「神祇省公安対魔特務六課 八咫烏」の二次創作作品です。

前作:魔特六課八咫烏 Incognito Files 姉泣谷の怪の巻 - Xen0gl0ssia

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「いただきます」

盆を前に、コッコは手を合わせた。普段は前にしている編んだ髪を後ろにやって、それから箸を取る。眼鏡越しに盆に乗せられた品を観察する。

メインは鯖の塩焼きだ。そして艶やかに炊きあがった白米と、これまた丁寧に出汁の取られた味噌汁。小鉢には小松菜のおひたしが添えられ、目にも鮮やかな緑色を提供する。

少し迷ってから、コッコは鯖の塩焼きに箸を伸ばした。パリッと焼きあがった青い皮目から漂う脂の匂いが、食欲を刺激する。さくりと箸で割ればすぐさま白くてふわりと焼きあがった身が現れた。それをほかほかの白米の上に乗せ、共に口の中へと運ぶ。鯖の脂の甘みとほんのりとした塩気、それらが炊き立ての白米と共に口の中で混ざりあい、お互いの味を引き立てる。口の端が頷きながら、その美味さを確認して飲み込んで――そして、再びその作業を繰り返す。時に箸の向かう先が椀や小鉢に向かいながら、10数分が経つ頃には、器の上はすっかり綺麗に消えていた。アウトキャストはカフェのはずなのに、どうしてこうも和食なメニューが登場するのだろうか、という疑問はおいしさの前にはすっかりと消え去っていた。

 

手を合わせて小さく「ごちそうさまでした」と呟いて、盆を下げようとすると、その盆はさっと回収され、代わりにコーヒーカップが目の前に置かれた。

「はーい、食後のコーヒーですよ、っと」

にっ、と笑いながらコーヒーを差し出す女性。切れ長の目に青色の瞳。常人より少しだけ長い耳はエルフを思わせる。そして印象的な二対の角。普通ならコスプレか、あるいは恐ろしささえ感じさせるかもしれないその角は、しかし彼女の美しさを引き立てるためのアクセントとして十全に機能していた。

「ありがとうございます、リン先輩」

「どういたしまして、コッコちゃん」

リンと呼ばれた彼女はそのままコッコの対面の椅子を引き、座る。

「どう?一人で逃げてたんでしょ?こういうごはんは久しぶりだったんじゃない?」

「ええと……実は、逃げた先で商店街の人と仲良くなりまして、実は意外とちゃんと食べてました」

「あ、そうなの?まぁコッコってそういう風に溶け込んでくの得意だもんね」

質問に少しだけ気まずそうにしながらもコッコは答える。リンはそれに傷ついた風でもなく素直に答えた。そうそう、とリンは続ける。

「お手柄だったって聞いたよ。地元警察協力の元で怪異討伐。判定は後回しにされてるけど、等級判定Bかもだって話でしょ?」

「はい、なんとかなんとか……って感じでしたけど」

カップを手に取り、一口。暖かさに安心して、ほ、と短く息を吐いた。

「そんな謙遜しなくたっていいのに、頑張ったのは事実でしょ」

「そう言ってもらえると嬉しい、ですけどねぇ」

カップを両手で包みながら、ため息をつく。

「先輩達だったら独力でなんとかしてたんじゃないかな、なんて少し考えちゃったりもしますね」

「それは違うね、コッコ」

ぐい、とリンが身を乗り出して、コッコをしっかりと見つめた。コッコは思わず身を正した。

「確かに、もっと戦うのが得意なメンバーだったら簡単な仕事だったかもしれない。それこそ、B級を単独で討伐できるような力を持つ隊員だったらね。でも、そこに居たのはコッコ、貴女だよ。隊員一人しか居ない状況で、いつ怪異が本格的に動き出すかわからない状況で、貴女は出来るだけの事をやって、成功させた。それはちゃんと誇りを持つべきだ」

「誇り……」

コッコはカップを置いて、胸の前でぎゅう、と手を握った。自分の行いを確認して、心持ちを確認するようなしぐさをしながら、少し俯く。リンはそれを見て、慌てて言葉を続けた。

「あいや、別に説教しようってワケじゃなくてね!ただ、そこで動けたコッコは凄いんだよ!って話がしたくて!」

わたわたと慌てる先輩の姿を見て、コッコはくすりと笑った。

「あぁ、いえ、大丈夫です。でも、先輩の言う通りだなって」

カップの中の水面を見つめる。黒い液体の中に映る自身の姿は、やはり自信なさげにコッコの目に映った。そんな表情を振り切るように、コッコはリンに相対した。

「やっぱり、まだ自信なんて持てません。でも、先輩がそう言ってくれるなら、それが私の力になる……いや、しなきゃいけないんですよね、ここは、そういう場所ですから」

コッコの相対を、リンは真正面から受け止めた。そして、深く頷いてから笑った。

「うん、それが分かってるなら大丈夫。安心したよ。ちゃんと八咫烏だ」

「リン先輩がそう言ってくれるなら、心強いです」

コッコも笑みを返した。

 

「さて、と」

リンは席を立つと、一つ伸びをした。

「コッコは明日から富士でしょ。それまではどうするの」

「はい、触穢区の公民館で子供たちを集めて朗読会をするみたいなので、読み手としてお邪魔しようかと」

「いいね。私達が守ったものをちゃんと見てきなよ」

「はい、そうします。……先輩も来ませんか?もうカフェのピークは過ぎましたよね?」

コッコはコーヒーを手にしながら提案する。リンはん~、と声を上げて迷ってから、店員の方へ顔を向けた。店員は頷いて、OKサインを出している。

「それなら、私も行ってみようかな。読み聞かせなんてやったことないけど」

「大丈夫、私と一緒にやりましょう。それに、先輩の読み聞かせも、聴いてみたいですから」

「おっけ、じゃあ準備してくるよ」

そう言ってリンはバックヤードに戻った。たまにはこういう平和な時間があっても悪くない、そう思いながら。

魔特六課八咫烏 Incognito Files 姉泣谷の怪の巻

 

 本作品はVRChat創作グループ神祇省公安対魔特務六課 八咫烏」の二次創作作品です。

 

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 ひゅうぅ、と風が泣いた。少年はその音に一瞬身を竦めたが、その音が鳴りやまないことに気づくとまた歩き始めた。

 少年の表情は暗く、涙の跡がある。三月も近づいてきたとはいえ、まだ冬と感じられる時期であった。着の身着のまま飛び出してきたのか上着すらない恰好の少年を、風は容赦なく吹き抜けていく。

「寒い」

 ぽつり、と呟いた。手をポケットに突っ込んで、獣道を歩いて行く。市街にある家からここまで自転車で1時間、自転車では入れないような道になってから、さらに歩いて30分ほどが経過していた。周りは木々に覆われ、風の音に紛れてざぁざぁと水の流れる音がする。

 またしばらく歩いて、音の原因に行きついた。ちょうどそこは滝になっていて、左右から岩壁がせり出している。その間を吹き抜ける風が、まるで女が泣いているかのように響いていた。少年は石の上に座って、しばらくその小さな瀑布を眺めていた。

 帰ろうか、しかし――そんな考えがぐるぐると巡り、また歩を進めようと立ち上がろうとした、その時である。

 ずるり、と、足元の地面が滑る。あ、と言う間もなく、少年は谷底へと落下を始めた。落ちる先は渓流だ。冬の水の冷たさと、その厳しさは想像に難くない。落ちればいずれ、低体温症となって死ぬことは少年にすら予想できた。

 ぎゅっと目を瞑る。走馬灯が脳裏を駆けた。思い出すのは喧嘩別れになった姉の顔。親戚に拾われて、その人たちも悪い人たちではないけれど、気持ちの上では本当に最後の血のつながった家族。俺の為を思って、と言い出しでは、やることなすことすべてになにか口を出してくる、自分より成績も器量もいい姉の言葉に、嫌になって家を飛び出したこと。その言葉だって、確かに行き過ぎではあったかもしれないが、それでも確かに弟を思ってのことだったと。谷底に至る一瞬で、少年の心は後悔に支配された。

 

「危ない!」

 自然音ばかりの谷に、女の声が響いた。女は少年の背を追いかけて地面を蹴ると川へと飛び込み、そして少年の体は女の腕の中に収まった。水しぶきが跳ね、二人の体を濡らす。女は川底をしっかりと踏みしめて、自身と少年の体を支えた。

 少年は目を見開くばかりで、言葉もなかった。ただ、女の長いまつげと、優し気な垂れ下がった眦に見とれていた。深く刻まれて取れなくなったのであろう隈ですら、その柔らかな美しさを引き立てる絶妙なアクセントとしか感じなかった。

「大丈夫ですか?」

 女がそう問いかけると、少年はまず口をぱくぱくとさせて、その頬を赤くして、ようやく話し方を思い出したように声を絞り出した。

「は、い。あり、がとう」

「無事なら良かったです」

 女は笑った。少年は、この瞬間を忘れないようにしよう、と心に誓って、目を閉じた。



 見覚えのない天井が少年を出迎えた。オレンジ色の布が四方から伸びる柱状のものによってぴん、と張られている。少年はゆっくり起き上がると、自分が寝袋の中に寝かされていること、そして、さっきまで来ていた服とは違い、白く、大きめで、普段着ているモノとは仕立ての違うワイシャツに身を包んでいることに気づいた。

 テントの中だ、と見当を付けた少年は、外に出ようとしてドアパネルを探した。見つけたファスナーを開けると、外には骨組みで出来たような中型バイクが停車してあり、少し離れた位置でぱちぱちと焚火がなっている。

 そのそばには、先ほどの女が座って火の番をしていた。タイトなジーンズにこれまたタイトなシャツは、その女性的な曲線を強調している。その上から黒いジャケットを羽織ってそのラインを隠し、太腿にはいくつかのベルトが巻かれ、その上にコンテナやポーチが装着されていた。視線の先は手元の資料に注がれ、その視線が動くのと、風に巻かれるのに任せて長いポニーテールの黒髪が揺れていた。

 テントの動きに気づいた女が少年の方へ振り向く。

「あ、目は覚めましたか?あの後すぐ気絶しちゃったので、心配だったんですよ」

 無事でなによりです、と言いながら女は焚火の上で組んだ木の三角錐の上から何かを手に取ると、少年の居るテントへと向かった。

「服、濡れちゃってたので乾かしておきました。今の、私の服だと寒いと思いますから」

 言われて少年は気づいた。確かに上はシャツとインナーだったが、下は緩いジョガーパンツで、下着は履いていなかった。気づいて羞恥心で耳まで赤くなる少年を、女はなんとも思ってない様子で、乾かしておいた服を差し出した。少年は何も言えないまま、ひったくるように自分の服を掴むと、急いでテントへと引っ込んだ。

 

 少年が着替えと羞恥心を収めおわる間に、女は外で茶の準備をしていた。外に出てきた少年を焚火のそばの椅子に手招きして座らせると、金属製のカップに注いだコーヒーを渡した。

「お砂糖とミルクは……ごめんなさい。用意が無くて」

 少年はおずおずとカップを受け取り、ちろりと舐めた。熱くて、苦い。が、それを言い出すのも情けないと思ったのか、我慢して一口飲み下す。その様子を眺めていた女はくすりと笑う。少し気恥ずかしくなった少年は、自分から話を切り出した。

「助けてくれてありがとうございます。その、僕は翔舞って言います。ちょっと離れたところに住んで……ます」

「いえいえ、当然のことをしただけですよ。私は松岡邦子です。呼びにくいと思うので、コッコで結構ですよ」

 コッコと名乗った女はコーヒーを慣れ親しんだように飲むと、話を続けた。

「しばらく暇になっちゃったので、各地を巡って伝承や民話の研究をしているんです。ここにもその一環で着ていました。珍しく人の歩いてきた痕跡があるな、と思ったので追いかけてみたのですが……まさかちょうど滑落するところに遭遇するとは。ラッキーでした、はい」

「あ、その……危ないコトして、ごめんなさい」

「いえいえ、困った時はお互い様です。でも、どうして?」

 コッコが聞くと翔舞は押し黙った。姉と喧嘩して、とは言いたくなかった。沈黙の気配を察して、コッコが先手を打つ。

「私はですね、さっきも言いましたが、此処にある伝承の調査をしに来たんです」

「……伝承?」

 翔舞が首を傾げる。そんな風に何かがある、という話はとんと聞いた事がなかった。翔舞の中で伝承と言えば、ドラゴンが出てくるようなファンタジーの世界か、あるいは大往生した妖怪漫画家の世界の話でしかなかった。

 コッコは翔舞が興味があると見るや否や、矢継ぎ早に言葉を続けた。

「はい!ここの地名の由来に関する伝承なんです!市立図書館で読ませて頂いた本にあったお話で、弟をこの谷で失った姉が来る日も来る日もここで泣き続け、しまいにはいつまでもその泣き声が響き渡るようになった――というお話があるんです!」

 コッコは楽しそうに本のコピーと地図を指で指し示しながら話を続けた。その勢いに気圧されそうになりながらも彼女の話を聞いた。

「――で、フィールドワークの結果、この谷のこの滝、この両端が山から吹き下ろしてくる風と相まってビル風のような強風となり、それが泣き声のように聞こえているのではないかと……ってあ、話し過ぎちゃいましたね」

 誤魔化すようにふにゃりと笑いながら広げた地図を仕舞う。話の内容こそ気圧されたものの、何かに熱中している様は翔舞にとってはまぶしく思えた。

「翔舞くんのお話も、聴かせてもらって良いですか?」

 コッコにそう問われて、翔舞はやはりすこし黙った。黒い液面を見つめて、やがて意を決したかのように顔を上げた。

「おね……姉と喧嘩したんです」

「喧嘩、ですか」

 コッコが返して、翔舞は頷いた。

「姉ちゃん、今年で中学2年生なんです。俺達、両親が大厄災で亡くなってて。親戚に引き取られて、それで生活してるんだけど、俺の親代わりになろうとしてるのか口うるさく言ってきて」

「それは……」

「分かってるんです。大事にしてもらってることは。でも、毎日宿題やっただの。門限がどうのだの言われると、やっぱ嫌になっちゃって。それでここまで来ちゃって……」

 翔舞は俯いた。子供っぽいところを話さなくてはいけない恥ずかしさと、そんな子供っぽいことをしている自分を客観的に見ることになったせいで、真っ直ぐ前を向けないでいた。

 暖かい感触が、翔舞の手を包んだ。びっくりして顔を上げると、翔舞の手を包むコッコが居た。

「分かります、なんて言えません。でも、翔舞くんがお姉さんの事を心底嫌っているワケじゃないことはわかります」

しっかりと、翔舞の目を見つめて、コッコは言葉を続ける。

「たぶん、お姉さんもから回ってるんだと思います。大丈夫、お姉さんも翔舞くんのことを思っての事なのは、間違いないですから。それでも、それを素直に受け入れられないことも、またよくあることなんです」

 だから、コッコは翔舞の手をしっかりと握った。

「ちゃんと謝りましょう。それで、お互いに納得出来るところを探りましょう。大丈夫、私に相談できるなら、お姉さんにも相談できるでしょう?」

 ね?と言い足しながらコッコは翔舞に告げ、その顔を至近距離で見ることになった翔舞は顔を真っ赤にした。

「もしそれでも悩むことがあったら、私にお話しにきてください。しばらくはこのあたりに居ると思うので」

 真っ赤になる翔舞に構わず、コッコは微笑みかけた。翔舞はこくこくと頷くばかりだった。




 買い出しのリストを確認する。カップ麺と生鮮食品、缶詰。洗剤や、山籠もりになりがちなことを考えると薪なんかも必要になる。いくつかの日用品や食料品が並ぶリストの最下部には、村田銃用の30番実包と書かれていた。どうせ手に入らないだろう、と諦めながらも、コッコはリストからそれは消さないでいた。

 愛車のPS250に跨る。背負ったリュックと増設したラックもなんのその、バイクはエンジンを唸らせて加速し始めた。

 辛うじて舗装された道路から生活道路へ、そして駅に近づくにつれて周りの生い茂った木々は減っていき、その代わり人の流れが増えてきていた。T県H市は関東圏であり、T県自体は東京と隣接はしているものの、大動脈となる路線から少し離れればまるきり地方かのような様相を呈している。H市もそんな市の一つであった。

 駅から少し離れた駐輪場でバイクを止め、駅前の商店街に歩を進める。もう少し駅に近いところに行けばそれなりに大きなスーパーがあるが、コッコはこういった商店街を巡るのが好きだった。人の生きてきた歴史が小さくもうずたかく積まれているのを感じることができた。昔ながらの営業を続ける精肉店洋品店、写真館に、その土地の名産を扱う専門店。町おこしをしようとする若者達によるバーやパティスリーと言った店が道に連なり、その合間に存在する寺社や信仰を垣間見るのが好きなのだ。

 以前由来を調べたところ、旅人の安全を祈願するため江戸時代に設置されたというお地蔵様に手を合わせて歩きながら、今日の予定を考える。まずは洗剤類を買いに雑貨店へ。それから使っているナイフの手入れをしてくれしてくれる店に行き、その後カフェ併設のキャンプ用品店で薪を手に入れつつ昼食。昼には図書館に向かい、そしてそのあとは――そんな風に計画を立てて商店街を歩く。

 このH市にやって来てはや一月程度。年明けからH市のはずれの姉泣谷付近でキャンプし続けている女がいるらしいというのは知られていた。そして、その女がなぜかこの地域に興味を持ち、図書館や商店街に足を運び、交流を続けているうちに――コッコは商店街の人に顔が通じるようになっていた。

 雑貨店に出向けばおしゃべりな老婆と一緒にお茶を飲みつつ雑談に興じ、刃物店に向かえば寡黙な職人が預けたナイフを手入れする姿を怒られない程度の距離から見学する。この商店街の中では若手のキャンプ用品店の店長さんに体調を心配されつつも、薪の代金を払っていつもの場所に届けてもらうようにお願いする。そのまま店長さんの奥さんが切り盛りするカフェで昼食を取り、午後からは図書館へ向かう。H市の市立図書館の郷土資料室は大きくはないものの、周辺地域や県下の歴史や伝承などが数多く残っている。それらを読み、時にノートを取り、時に司書に許可を貰って印刷する。これらは以前も行っていた彼女の”仕事”でもある。

 そうして閉館の時間になると、コッコは図書館から出た。時間は17時を少し回ったばかりで、まだ冬の名残の残る外気温であった。袖をすり合わせながら駐輪場に向かい、愛車に跨り、拠点へと戻る。

 街灯も少なくなって、拠点までもうすぐ、といった頃合いで、コッコは周りの異変に気が付いた。足跡。それも、山へ山菜を取りに来る老人たちのものではない。もしかして、翔舞が来たのだろうか?だが、今日は来るという話を聞いていないはずだ。ここ最近は二日に一回のペースで遊びに来ていた翔舞だったが、彼は昨日もここに来ている。

コッコの胸の内は警戒心一色となった。バイクをいったん道に停め、耳を澄ませた。ひゅおぅ、ひゅおう、と女の泣くような風切り音がなり続ける中で、じぃっと身を潜める。

 

「んもう、空振りかぁ」

緊張感のない声が風にまぎれて聞こえてきた。どうやら自分より年下の女であり、敵意から来ているようではない、とも感じとれたコッコは、潜むのをやめて表に出た。声の主を確認する。黒色の地味なセーラー服の上にはこれまた地味な色合いのコートを羽織っている。校則なのか肩の上で切りそろえられたボーイッシュな髪型と、すらりとした体系のおかげで快活に見える少女の姿を認めて、コッコは彼女に声を掛けた。

「あの、誰かお探しですか?」

「わひゃぇあ!?」

「ひゃぁ!?」

少女は驚き飛び上がった。そんなに激しく反応されるとも思ってなかったコッコもまた驚き、飛び上がった。その後、両者見つめあう時間が過ぎて、どちらからともなく頭を下げた。




「急に声を掛けてしまってすみません。私、松岡邦子と申します」

 コッコはローテーブルにコーヒーを置いた。砂糖とコーヒーミルクも用意してある。

「ど、どうも」

 おっかなびっくりと言った様子で少女はカップを持ち上げて、なめるよう一口飲む。その苦さに辟易としたのか、容赦なく砂糖とミルクをぶち込んだ。

「す、すいませんいきなり来たのに、驚いちゃって、こうしてコーヒーも頂いて……私、翔舞の姉です。石井湊と言います」

「あぁ、やっぱり……。そっくりでした。コーヒーの飲み方が」

 言われて湊は気恥ずかしそうに頬を掻いた。

「それで、あの、翔舞くんのお話ですよね」

「はい。ご迷惑をおかけしてないかと……」

「いえいえ全然!先週知り合ったばかりでしたけど、よく遊びに来てくれて嬉しいんですよ。この間はこの辺で山菜や沢蟹なんかを一緒に獲ってくれたり」

 湊は首を傾げた。山菜はまだわかる、が、沢蟹というのはピンと来なかったからだ。それを察したのか、コッコは補足した。

「沢蟹、油で素揚げして食べるとおいしいんですよ」

「食べる」

「はい。冬は活動こそ少ないですが、水辺の近くで冬眠しているので探せば結構見つかるんです。冬のもののほうが味も良くて食あたりもないと言われているんです。こういう伝承は各地にあって――と、これは蛇足ですね」

 きょとんとする湊に対して、コッコは説明を続けそうになるのを切り上げた。ともかく、と言ってコッコは話を変えた。

「迷惑だなんてことはありません。むしろ新鮮で楽しいです」

「そう、ですか」

 湊はすこし安心したように肩の力を抜いた。

「聞いていた通りのお姉さんですね、翔舞くんのことを一番に考えている」

「聞いていた、ですか」

「えぇ、しっかり者のお姉さんだと聞いていました」

「しっかり者、本当にそう思ってるならいいですけれど」

 湊は自嘲気味に言って、コッコをじいっと正面から見据えてから、頭を下げた。

「翔舞をかまってくれて、ありがとうございます。……あの後、翔舞が謝りに来ました。それで、ちゃんとルールを決めようって。その約束はちゃんと守るよ、って。急に言い出すものだから、先生とでも相談したのかって聞いたら、あなたの名前が出てきたので、お礼に」

「そんな、大したことじゃないですよ。少しお話しただけです。ちゃんと謝れたのは翔舞くんと湊さんの仲があってのコトですから」

 どちらからともなく、二人は笑いあった。




 買い出しのリストを確認する。今回は普段の買い物ではなかった。”お茶会”のための買い出しだ。コーヒーはいつものインスタントではなく、苦みの控えめなブレンドを、お茶請けには街のパティスリーでイチオシされたチーズケーキ。それから、砂糖とミルク。翔舞と湊の二人を迎え入れるための準備だった。

 二人が一緒に自分の拠点に来る、という事で、コッコの足取りは軽かった。二人の関係がどうなったのか、詳しくはわからない。だが、喧嘩しなくなったのであればそれで良いし、もしまだ険悪だと言うのであれば、それはそれで二人の間を取り持ついい機会だとも考えていた。

 あとは拠点に戻って、二人が来てもいい様に準備をするだけだ。そう思いながら、愛車のPS250へと足を進める。

 

「失礼、お嬢さん。少しばかりお話させて頂きたいんですがね」

 コッコの背に声が掛けられた。振り向くとそこにはコート姿の男が一人。ただしその所作はサラリーマンのそれではない。同族、の匂いをコッコは嗅ぎつけていた。表情には出さず、応対する。

「はい、なんでしょう」

「あぁいえ、最近この辺にテロリストが潜伏している、って話がありましてね。物騒だからこうしてお声かけさせて頂いてるんですよ」

 と言いながら男はこういう者です、と手帳を差し出した。和田と名前が書かれたそれが偽物であるか、コッコには判断出来ない。が、本能は本物であると告げている。一刻も早くその場から離れたい衝動に駆られるが、ぐっと堪えて応対する。

「それは……物騒ですね。気を付けませんと」

「えぇ、だからね、我々としてもこうして見回っているわけでして」

 男はそこで言葉を区切った。傍目には一般人にしか見えないコッコを相手に、最大限の警戒を持ちながら、次の言葉を続けた。

「出来たらご同行願えませんか、公安対魔特務六課、八咫烏の松岡邦子さん」

「……やはり、そうなりますよね」

 最初から分かりきっていたことではあった。本来は怪異と人々を守る存在でありながら、突如としてテロリスト認定された公安対魔特務六課。コッコもその隊員の一人であった。あの日、突如として本部と通信が途絶し、その後津守課長からの「逃げ延びろ」という命令に従った隊員の一人。

 後方要因でありながら、たまたま前線での霊力分析のために一人別行動となったコッコは、他の人員とは違い、一人だけで逃げる選択をした。

 きっと和田を睨み返しながら、コッコは毅然と返そうとした、その時、破裂音。

 亜音速の.32ACP弾がコッコを襲う。拳銃弾とはいえ、ただの人間であるコッコには回避はもちろん、狼狽える間も無い。弾丸はただ、爆轟に依って与えられた運動エネルギーを消費しながら、真っ直ぐコッコを穿つ、かに見えた。

 着弾する直前、一瞬だけ空間が歪む。そして弾頭はそこで静止すると、からりと音を立てて地面へと転がった。ありえない現象に、コッコを撃った射手が驚愕する。和田は聞こえてきた破裂音に驚き、身をすくめている。

 瞬間、コッコは荷物を投げ捨て、バイク目掛けて駆け出した。訓練と今までの経験が彼女の脚を動かした。

 今の不可思議な現象は彼女自身で術式を構築した矢避けの護符によるものだ。山梨に広く伝わるヤマノカミは、1月下旬に弓入りを行い、そしてその日に立ち入った人間はヤマノカミに射られて命を落とすという。それを避けるために捧げられていた供物を図式化し、霊力を流し込むことで飛来するものに対しての耐性を得る。

 本来は矢を射る怪異や幻獣等のブレスから防護するために用いられるものだったが、幸いにも銃弾相手にもその効力は発揮された。試作の一枚しかない特別製のその護符は、確かに役目を発揮した。

 コッコの死角からシグザウエル P230を構えた警官が数名、姿を現す。射撃が阻まれたというまさかの現象に狼狽しつつも、次こそはと各々狙いを定める。

コッコはコンシールドしていた45口径を右手で抜いて牽制射を放とうとし、その指が留まる。敵意をもってこちらに銃口を向けてくる人と相対するのはこれが初めての経験だった。

 逡巡。

「やめろ!」

 和田が叫び、警官達は動揺からか射撃を止める。その隙にコッコは射撃を中断。バイクへと飛び乗り、エンジンスタート。アクセルを全開にし、無段階変速機がその入力を繋ぐ。砂埃を立てながら急発進。

 警官達は再び狙いを付ける。だが、バイクはすでに数十メートル先へと走り去っていた。この状況では一般人へ危害を加える可能性があると判断。射撃を中止する。

「何勝手してやがるクソッたれ、どういう了見だ。こっちはまだ”交渉”をしていたんだ、それを台無しにしやがって」

 和田は怒り心頭であった。警官達に向かって怒鳴りつける。

「警察は人殺しじゃねぇ。それをわかってんのかお前ら」

「しかし、生死は問わないと、警視庁から」

「だからもへちまもあるか、だいたいあの女は人間だって話だろうが」

 クソが、悪態を突きながら和田は胸ポケットのソフトパッケージからハイライトを一本引き抜き、無造作に火を付ける。だが、怒りは収まるところを知らない。

桜田門のヘボ共の言うコトなんてマトモに聞くんじゃねぇ。ちったぁ頭を使え」

 紫煙を吐く。往来で堂々と喫煙する和田に対して、警官達は注意することもできなかった。

「あの女は殺さねぇ。聞きたい事もある……だいたい、桜田門がコソコソしてんのが気に入らねぇ。ウチのSATの連中はアイツらの言いなりで使えねぇし、何が起きているのか、知る必要があるからな」

 半分も吸わないうちに、和田はハイライトをもみ消して、携帯灰皿に突っ込んだ。



 今までにないほどアクセルを全開にして、コッコは野営地へと戻る。バイクを飛ばしている間、思考は恐怖に支配されていた。

 今までにも死にかけた事は何度もあった。この仕事を選んだ事を心底後悔するほどに訓練で歩かされ走らされたこともあれば、禍人の集団に対応するため最前線で銃器を振り回した事だってある。大火の中、迫りくる怪異と相対し、時間を稼いだことだって。だが、人と相対し敵意を向けられたのは初めてのことだった。

 なにより恐ろしいのは、自分が一瞬でも「人に向かって銃を撃つ」事を考えた事だった。

 血の気は引き、手は震え、膝から頽れそうになるのを必死にとどめながら、バイクから降りる。ここにはもう、居られない。半ばパニック状態でテントや荷物をひっくり返し、必要な物資をかき集める。

 だから、近づいてくる二人にも気づかなかった。

「コッコ姉ちゃん!」

 コッコの異様な様子を気にも止めず、翔舞が元気に挨拶する。びくり、コッコは肩を跳ね上げて固まった。

「聞いてくださいよコッコさん。翔舞ったらまた宿題忘れて、ちゃんとやらないと連れてかないぞって脅してようやく……って、大丈夫ですか?」

「だ、大丈夫、大丈夫ですから」

 誰が聞いても動揺を感じ取れるほど不安げな声で答えながら、コッコは翔舞と湊の二人に向き直った。汗が止まらず、心臓が脈打つのが早く感じる。

「ごめんなさい、急用が入っちゃって。私もう、ココを発たないと行けなくなってしまったんです」

「えーっ!」

 翔舞が大きな声を上げる。湊のほうも急なことに驚いているようだ。

「その、なにかあったんですか」

「えぇ、だから、今すぐにでも行かないと。ごめんなさい」

 コッコはそう言って何度も頭を下げた。

「だったら手伝いますよ。荷物も多いでしょうから、翔舞もね?」

「い、いぇ、大丈夫です。なんなら、邪魔になるものは……一旦置いていきますから」

 善意からの言葉だったが、今のコッコにはその善意は足枷になり得る。今この瞬間にも、和田やその部下たちがぞろりとやってくるかもしれないのだ。それに翔舞や湊を巻き込むというワケにはいかない。

「また会いに来ますから、今は急がないと」

 あまりの焦りぶりに湊も翔舞も不審に思い、二人で顔を見合わせた。そして、どちらからともなく頷く。

「わかった。絶対、戻って来てね」

「私からもお願いします。またコッコお姉さんのお料理、食べたいですから」

「ごめんなさい、ありがとうございます」

 コッコが頭を下げた。二人は頷いて、立ち去ろうとする。

 エンジン音が鳴り響いた。続いて赤色灯の瞬きと、スイープする音が耳に届く。まるで威嚇しているかのようなパトカーがコッコの拠点となっている野原に向かって駆け込んで来た。急ブレーキを踏み、コッコ達3人の前で停まる。その後ろから2台のパトカーが、今度はすこし距離を開けて止まった。

 翔舞と湊は呆然とした。ココにパトカーが駆け込んでくることなんて想像もしていなかったし、自分たちにそんな覚えもない。自然とコッコに視線が向かった。コッコは苦しそうな顔で、その視線から目を逸らした。

 急ブレーキのパトカーから、コート姿の男が降り、続いて他の警官もそれに倣った。コート姿の男――以外は、拳銃を抜いている。

「当然だが、ココも調べてある。ガキには見せたくなかったから、アソコで着いてきてくれると楽だったんだがね」

 和田はコッコをまっすぐ睨みつける。コッコはその迫力に思わずたじろいだ。

「姉ちゃん」

「お姉さん」

 説明を求める声も、コッコには届かない。ぎゅう、と手を握りしめるばかり。

「そこの坊主と嬢ちゃん、その姉ちゃんはな、テロの容疑で追われてる身なんだよ」

 低く、良く通る声で和田はきょうだいに告げる。

「だからこうして俺ら警察が追いかけてるんだ。わかるか、その姉ちゃんはな、捕まらなきゃいけないんだよ」

 一瞬、沈黙が訪れる。ひゅおう、ひゅおうと風ばかりが鳴り響いている。

「そ、んなこと。やだなぁ警察のヒトって、冗談がヘタで……」

 そう言って湊はコッコの方を向いた。嘘だと言って欲しかった。

「……私が、いえ、私達がテロリストとして追われていることは、事実です」

「……え、そんな。コッコお姉さん、冗談ですよね」

「冗談ではありません。ただし、私達は無実の罪を被せられて、こうして追われている身になっています」

「そういうワケだ。身の潔白なら、署で証明してくれや」

 均衡を破るように、和田が一歩踏みだす。

「イヤだ」

 翔舞が、はっきりと告げた。

「イヤだイヤだ!!コッコ姉ちゃんがそんなコトするワケないだろ!僕が溺れて死にそうなときも助けてくれた!その後も優しくしてくれた。姉ちゃんと仲直りするきっかけだってくれた!そんな人が、そんな人を傷つけるようなコトしない!」

 幼い感情を爆発させて、コッコをかばう様に和田達警察の前に立ちふさがった。はぁ、と和田が深いため息を吐く。

「気持ちはわかるよ坊主。だがな、そうは言っても俺達警察は言われたからには捕まえて、ちゃんと調べにゃならんってワケ。無実なら、それで――」

「嘘つけ!そんなコトあり得るもんか!コッコ姉ちゃんを連れて行くなんてさせない……!」

 ごう、と一際風が強く音を立てた。それは一瞬だけではなかった。みるみる合間に風は強く、刃物のような鋭利さを持ち始めた。ひゅおう、から、ひゅんへと、文字通りの風切り音へと。

「しょ、翔舞……!」

 異様さに初めに気づいたのは湊だった。風が切りつけるように鋭くなり、痛みを伴いだす。風は翔舞を中心に渦を巻き、さらに強まっていく。それはやがて、和田の方へと向かいだす。

ひゅん!

 音速を超えるような速度で風の刃が飛ぶ。その異様さに気づいていながら、超常の刃に和田は寸前まで気づけない。首元目掛けて襲い来るそれに、しかし和田は刑事の直感で、すんでの所で腕で守る。厚手のコートの袖がぱっくりと割れ、中のスーツも切り裂き、うっすらと皮膚には血がにじむ。

「ぐぉ……ッ!なんじゃ、こりゃ……!」

「コッコお姉さん!翔舞が!」

「……!」

 その一言と、目の前の現象にコッコは正気を取り戻す。そして、直観と経験が告げる。

 風妖。風の力を操る怪異。鎌鼬やシルフのような大気を自在に操作する怪異が、翔舞に取り憑いているのだ。

「……翔舞くん、だめ……!」

「コッコ姉ちゃんは渡さない。連れてかせるものか……!!」

「全員物陰に隠れろォ!!」

 和田が叫ぶと同時に、パトカーの裏へと転がりこんだ。警官も和田の警告を聞き入れたのか、パトカーやそのドアを遮蔽にする。

「翔舞くん!!やめて!!」

「翔舞!」

 コッコと湊に呼ばれるも、翔舞は止まらない。湊は翔舞を後ろから抱きしめ、止めようとするが、翔舞が腕を振るって生まれた風がその体を弾き飛ばす。吹き飛びそうになる体を、コッコが咄嗟に受け止める。

「ダメだよ、姉ちゃん。ちゃんとわからせなきゃ。手出ししないように……!」

 コッコの言葉も届かない。翔舞は怒りに身を任せて、風の刃を乱射した。

 エンジンやホイールを遮蔽に出来たものは幸運だった。が、薄いドアを遮蔽にしたものには不幸が待ち構えていた。機関銃の連射の如く叩きつけられた風刃はドアのスチールを削り、やがてそのドアを切り裂いた。余波で警官が切りつけられ、倒れる。

「……ほら、こうやって、さ」

 にぃ、と翔舞が口をゆがめた。ひゅおう、ひゅおう、と翔舞の周りに風が集う。それらは意思があるかのようにふるまい、翔舞に付き従う。

「もっと、もっと痛めつけたら、もうコッコ姉ちゃんに手出ししないよ。だから」

 ふわりと翔舞の体が浮き上がる。空中を滑るように移動し、遮蔽のない上から風を放とうとしていた。

「クソッたれがよ……」

 和田は悪態をつきながら、翔舞を見上げた。ホルスターに吊ってあったP230を抜き、それを向けるか逡巡する。子供に向けるようなものでは、断じてない。だが、あれは、怪異。和田のそれなりに長い警察生活の中でもそう言われる存在の噂は聞いていた。だがいざ自分が相対してみると心が揺らいだ。あれに勝てる人間など、そうはいないだろう。そしてそれは俺たちではないと、心のどこかで理解していた。

 翔舞が両手を振りかぶった。風の刃を放つ準備動作。撃つなら、もう今しかない。照星を少年に重ねる。引き金に指をかけ、あとは引くだけ――。

 その照星に、女の背中が重なった。

「バカ……ッ!」

 和田は咄嗟に引き金から指を離した。そして、風の刃が女ごと、切り裂かんとするのを覚悟して、起きない。

「……なんでさ、なんでコッコ姉ちゃんが邪魔するの」

 立ちふさがった女はコッコだった。動揺する翔舞を真正面から見つめながら、返す。

「翔舞君に、こんなことしてほしくないからです」

「なんで!このままだとコッコ姉ちゃんは」

「だとしても!翔舞くんが誰かを傷つけてまで守ってほしくありません!」

 それに、コッコは翔舞の背後を見て、続けて言った。

「貴女もそんな事を、翔舞君にさせる気ですか!」

 え、と声を漏らしながら、翔舞は背後へと振り返る。

 小袖を纏った透明な、それでいて実在感のある輪郭を伴った女性の姿。何者かが、翔舞の後ろに「憑いて」いる。

 翔舞に見られた事を契機に、風は力を増した。暴風となり、辺り一面の土砂を巻き上げる。

「うわぁ!」

 翔舞は驚き、それを止めようとしたが、風は止まない。石が礫となり、コッコや湊すらも襲いだす。

「ッ……!」

 コッコは咄嗟に上着の内に縫いつけられたホルスターに左手を突っ込むと、そこにあった呪符を取り出し、霊力を流し込む。瞬間、ほのかに発光したかと思うと、透明な立方体の箱が出来上がる。さっき使った矢除けの護符が使えればよいが、風に対しての発動は確認できていないし、何よりあれは一枚しかなかった。

 風と礫に弾き飛ばされそうになるのを何とかいなしながら、右手でナイフを抜く。ホルスターには45口径も収められていたが、この状況では翔舞に当たりかねない。風となった霊力の流れを読む。自然風と同じように、常に均一の力で吹いているわけではない。

 ここだ、コッコは箱の術を解くと翔舞へと駆けだした。上空およそ5mで浮かぶ翔舞と怪異に、コッコの跳躍力ではどう霊力で強化しようとも一足では届かない。細かい跳躍を刻み、そのたびに箱型術式を発動し、それを足場にしながら翔舞へと近づく。土煙がだんだんと薄くなってゆく。

 翔舞の姿が、背後の怪異の姿が、見える。

「コッコ姉ちゃん……」

「大丈夫、助けますから……!」

 翔舞の目にもコッコは傷ついていた。石を孕んで巻きあがった風はコッコの体のあちこちを傷付けている。コッコはナイフに霊力を込めた。元が戦闘要員ではないコッコの霊力の底は浅い。すでに複数回の術式発動によりガス欠寸前だったが、なんとか一太刀は怪異に届く。

 この一撃でとどめを刺す。 核を的確に刺し貫けば、霊力の塊であるところの怪異は霧散する。核はどこだ。コッコは己の直感に従い、翔舞の背後の怪異の心臓部目掛けてナイフを突き出した。

 感触が、ない。元より実体がないという次元の話ではなく、霊力としての感触すらほとんど伝わってこない。

――外した!?

 コッコの表情が驚愕に歪む。と同時に強風がコッコの体を強かに打ち付けた。足場としていた箱型術式から振り落とされ、落下する。翔舞の顔が見える。泣いている。必死にこちらに手を伸ばしている。だが、届かない。

 コッコの意識はそこで途切れた。

 

「……さん、コッコお姉さん!」

 揺さぶられてコッコは目を覚ました。眼前には涙を流す湊がいる。

「湊……さん、翔舞くんは……」

「わからない、あの後、あの風の化物に連れ去られて……」

起き上がりながら周囲の風景を確認する。周囲は荒れ、コッコのテントやPS250は無残に倒されている。無事な警官が手傷を負った警官に肩を貸しながら歩いているところが見えた。

「……行かないと……!」

「おっと、待ってくれよ八咫烏

 立ち上がろうとしたコッコの後頭部にニューナンブの銃口が押し当てられた。かちゃり、と撃鉄の起きる音。

「アンタのせいでウチの人員に被害が出てるんだ。はいそうですかって行かせるワケ、ないだろ」

 コッコの後ろには和田が立っていた。片手でニューナンブをコッコの後頭部に押し付けながら、言葉を続ける。

「怪異がなんだか知らんが、お前が逃げたせいでこうなった。お前のせいだ」

「……」

 コッコは何も言えなかった。自分が逃げたせいで今の事態を引き起こした。それは逃れようのない事実であった。

「そんな……翔舞は、どうするんですか」

「後でウチのナントカがやってくれるさ。今はこの女を確保するのが優先だよ、嬢ちゃん」

 湊の訴えもすげなくあしらわれる。反駁しようとする湊を、和田は視線だけで黙らせた。

「……それでも、私は、八咫烏の隊員です」

 コッコは立ち上がり、振り向いた。和田は一歩二歩と距離を取り、構えは解かない。

「お願いします。翔舞くんを取り戻すための時間をください。私の責任です。私の失敗は、私で拭わなくてはいけません。そのあとでなら、何をされてもいい」

 お願いします。その言葉と共に頭を下げた。和田はじぃっと、その姿を見て、構えを解いた。そして大きく舌打ち。

「わかったよクソ。俺だってガキが連れ去られていい気分なワケねぇからな」

「ありがとう、ございます……!」

「感謝される謂れはないね。誰が好き好んでこんな事」

 そう吐き捨てながら、和田は胸ポケットからハイライトを出して、火を付けようとする。

「ンでだ、策はあるのか。アンタのナイフ、アレに通じてなかっただろ」

「あります」

 コッコは即答した。和田は火を付ける手を止めて、コッコを見た。確固たる意思がその瞳にはあった。

 

 三月の風はやはり冷たい。その寒さは気温だけではないだろうなとぼんやり考えながら、和田は日が落ちて暗い森の中を走る。

 子供の頃はともかく、刑事になってからこんなに山歩きをしたことは数えるほどしかなかった。背負っているリュックには作戦の要となる物資がパンパンに詰め込まれている。腕時計で時間を確認する。時計は合わせた。予定の時間まではあと数分。それまでに和田は指定のポイントまでたどりつかなければならない。

 暗い夜道を警戒しながら足は止めずに、先ほどまでのコッコとのやり取りを思い出していた。

 

「湊さんは?」

「あの嬢ちゃんなら車で待たせてる、行かせるワケにもいかないだろ」

「そうですね。ありがとうございます」

 コッコは紙を広げた。この周辺の拡大地図だ。

「これは姉泣谷の周辺地図です。私はもともと、K.A.I.N.T.――八咫烏の中枢システムによる霊力情報を受けてこの土地にやって来ていました。目的は霊力の高まりによって怪異を生み出しつつある姉泣谷の調査。周辺に関する情報はK.A.I.N.T.には不足していたので、周辺の図書館や住民に聞き込みを行っていました」

 コッコは地図の一点を指差す。岩壁がせり出した谷となっており、姉泣谷がそう呼ばれる由来の一つでもあった。

「この場所。ここが長い年月を掛けて風化し、姉泣谷と呼ばれるに至る独特の風の音を生み出す原因となっています。その風化によって鳴り響くようになった音と、姉が弟を失くした悲しみという伝承が混ざり、怪異となりつつある。私の立てた推論は、この谷を破壊すれば怪異が生まれる前に抑えられる、というものでした。」

「待った。その根拠はあるのか」

「あります」

 コッコはタブレット端末を取り出すと和田に見せた。

「こちらは類似の案件……核が別の場所に存在し、主として活動する怪異が遠隔で動く、というタイプの怪異のデータです。総データ数は973件。そのうち核を破壊することで怪異を払えた案件は846件に上ります。約87%の確率ですね」

「そのデータの正確性は?」

「このデータはK.A.I.N.T.……我々八咫烏のメインシステムAIのデータベースに基づくものです。私的にバックアップしていたものを持ち出していました。正確性は保証します」

 なるほどな、と呟いて和田はタバコを咥えた。火を付けてから言葉を続ける。

「だがいまだに破壊できていないし、俺達には破壊する手段もない、そうだろ?」

「いいえ、あります」

 は、と和田は思わず呆けた声を出した。火を付けたばかりのタバコが口から落ちる。コッコは続ける。

「和田さんのおっしゃる通り、破壊する手段がネックでした。八咫烏という後ろ盾を失っていますから、気軽に爆発物を用意するわけには行かない。なんとかして用意する必要がありました」

「おいまさかアンタ」

「商店街の井上さん……洗剤とか、農業用の肥料なんかを扱っている雑貨店を営んでいるお喋りなおばあさんです。あの人と仲良くなって、いろいろと用立ててもらいました。やっぱり昔の人は凄いですね。いろんなコネクションと知恵がありますから」

 そう言ってコッコは笑った。和田はひきつった笑みを浮かべながらタバコを拾った。

「アンタ、テロリストになれるよ、本当に」

 

 所定の場所に着いた和田はリュックを一度おろすと、中身を確認した。コッコ手製のアンホ爆薬。肥料などから簡単に生成でき、かつ安全性も高い。起爆に難がある点を、ガスボンベを流用したブースターで解決した手製の爆弾だ。コッコがまだ八咫烏に入る前、炭焼き小屋の老人が片手間にダイナマイト漁をするために作っていたものを教わったらしいと聞いた。

 とんでもない女だなと思いながら、時計を確認する。予定時刻は過ぎた。コッコは今頃おとりとして交戦を始めているはずだ。十分な距離、怪異を谷から引きはがすことができれば、合図がなる手筈となっている。短い間、ひゅおう、ひゅおうという音だけが鳴り響く。

 

 ぱんぱんぱん、と3回の破裂音。予めコッコと決めておいた合図の号砲だ。あらかじめコッコが怪異の気を引く囮となり、その間にこのアンホ爆弾を仕掛ける手はずとなっている。

 上手くやれよ、八咫烏。和田は内心で呟きながら、リュックを担ぎあげた。




 風が強く打ち付けられ、木々を揺らし、その表面を刃物のように切り付ける。風妖を相手にコッコは着かず離れずの距離を保ちながら囮としての役割を果たしていた。翔舞に意識はない。気絶しているだけなら良いが、怪異によってその霊力を利用されているのならば時間はあまりない。逸る気持ちを押さえつけながら、コッコは暗闇の中、木々の間を走り抜け怪異を誘引する。周辺を昼夜を問わず調査していたおかげで夜の森の中であっても戦闘を行う事が出来る程度には土地勘もあった。

 森の大木を遮蔽としながら、息を吐く。背負った村田銃がかちゃりと金具の音を立てた。焦れた怪異がひゅうぅ、とうなりのような音を立てた。意識のない翔舞の体が苦悶に歪む。霊力を引き出しているのが分かる。すぐさまにでも駆け寄り解放させたい気持ちを耐える。

――ごめんなさい、翔舞くん。もう少しだけ耐えてください……!

 心の中で懺悔しながら、コッコは45口径を引き抜き、空中に向けて3連射。十分にひきつけることは出来た。後は和田の仕事に掛かっている。

姉泣谷の怪異、この風妖の核は谷の音を放っている岩壁。それが術式となり、怪異の要となっている。風妖に核がなかったことで、コッコはそれを確信していた。

 あとは爆弾をセットして、起爆までの数分を稼げば勝機はある。45口径の残弾をチェックしてから、再び囮として再び飛び出す機会を伺う。

 ふと、風が止んだ。木々に叩きつけられる風は止み、静けさが辺りを支配する。不審に思ったコッコは、遮蔽から少しだけ覗いて状況を確認しようとした。

 次の瞬間、再び風が吹き始めた。ただし、それはコッコに叩きつけられる風ではなかった。コッコは己の目を疑った。風妖が両手を掲げ、霊力を圧縮している。それは圧縮により熱を帯び、巻き上げられた葉はその圧縮熱によって発火している。翔舞は怪異の加減か、燃えるような事はない。しかしコッコにとっては、今それが自身に投射されようとしている事実こそが最も重大であった。

 反射的に遮蔽から飛び出す。と同時に風妖は圧縮された空気球を放った。数瞬前までコッコが居た場所に着弾すると、圧縮された空気と熱を解放した。

 箱型術式を遮蔽にしようと左手で呪符を引き抜き、最大限の霊力を込めて発動。ほのかに輝く立方体がコッコと着弾点の間に生成される。が、それを突き破り、コッコの体は爆風に煽られた。体は浮き上がり、続いて地面に叩きつけられ転がり、木にぶつかってようやく止まった。枯草に火が燃え移り、辺りを明るく照らす。

 かひゅ、と細い息を吐きながら、背負っていた村田銃で体を支えてなんとかコッコは立ち上がった。手にしていた45口径は落としたのか、もうここにはない。霊力は先ほどの箱型術式でほぼ底を着いた。発動出来てあと1回。それもこの攻撃を防げるほどの出力は望むべくもない。防火素材のアウターは着衣火災からコッコを守っていたが、それも二度はないだろう。

 有効な手段だと風妖も気づいたのだろう。再度の発動のため両腕を上げ、圧縮を始める。

「……ここまで、でしょうか」

 立ち上がりこそしたものの、心の灯はもう吹き消されていた。足はもう動かない。恐怖と諦観が彼女を支配する。苦しんでいる翔舞の顔が、自分を責めているように思えた。

 所詮後方要因の自分がここまでの大立ち回りをすることなど、土台無理だったのだ。戦闘要員の隊員たちには及ぶべくもない。彼らだったら、もっとスムーズに怪異を倒せていた。それも、アレコレ手段を考える必要もなく、一刀の元に切り伏せていただろう。

 ごめんなさい。そう呟いて膝を折ろうとしたとき、爆音が森に轟いた。風妖のそれではない。森の奥から聞こえてくるその音は、和田に託した爆弾の音だった。

 コッコははっとした。正面に立ちはだかる怪異を再び見た。小袖姿の怪異は自分の心臓を抉り取られたかのように悶え、暴れ狂う。圧縮を中断し、苦しみを周囲に発散するかのように風を叩きつける。

――そうか、和田さん、やったんだ。コッコは胸中でそう呟く。凄い人です、とも思った。怪異と相対し、動ける人間はそうは居ない。翔舞のために、市民のために、彼は役目を全うした。

 報いなければならない、彼の行いに。そして、翔舞くんとその無事を待っている湊さんのために。コッコの心に、再び明かりが灯る。

 核となる谷の術式を破壊されても、風妖は姿を消しはしなかった。切り離されてなお、翔舞の霊力を汲み上げて周囲に暴風を巻き散らす。その胸には新たな核が生まれ始めていた。

 だが、その揺らいでいる刹那、今なら翔舞を風妖から引きはがすことができる。

「あああぁぁっっ!!」

 コッコは裂帛の叫びと共に走り出した。今まで出した事のない程の雄叫びで自らを奮い立たせた。暴風に対し、愚直なまでに真っ直ぐ突き進む。残った霊力をかき集めて、箱型術式を展開、と同時に跳躍し、その上に飛び乗る。そして再びの跳躍。今度こそ、翔舞の手に届く。そのまま翔舞の体をしっかりと抱き留めると、風妖の支配から翔舞を引きはがした。

 落下する。受け身などまともに取れるわけもなく、ただ翔舞を傷付けまいと無理矢理に転がって勢いを殺す。やがて止まると、翔舞の姿を確認した。脈は確かにある。

「翔舞くん!」

 懇願するように、コッコは翔舞に叫んだ。翔舞の眉がびくりと動き、薄く目を開けた。

「コッコ……ねぇ……ちゃん」

「大丈夫、助けに、来ました」

「……うん、ありが、とう……」

 それだけ言って、翔舞は再び意識を失った。コッコは翔舞の体を優しく地面に寝かせると、再び風妖と相対した。背負いなおしていた村田銃を手元に引き寄せ、構える。

 風妖は新たな核を生成しながら、コッコの方を向いた。殺意をむき出しにし、再び手を掲げて熱球の準備動作に入る。

 コッコも村田銃を構えた。

 息を吸う。息を吐いて、止める。今にも途切れそうになる意識を、その集中力だけで繋ぎ留めながら、引き金に指を掛ける。照星と照門、核が一直線に重なる瞬間を待つ。

 引き金は引くのではない。絞るものでもない。ただ、その時になれば絞り落ちるのだ。

 爆轟と共に閃光が銃口から奔る。唯一残っていた八咫烏製の霊導石を鋳込み、儀礼化を施した特別製の弾頭。霊力に乏しいコッコがそれを補うために、八咫烏儀礼化弾頭だけではなく独自に霊力を蓄積する機構を備えた弾頭が、風妖の核を過たず捉えた。

 風妖は圧縮した大気を放つことは叶わず、ただその妖力が周辺に無造作に吐き出され、やがてそれも止まり、その姿を霧散させた。

 コッコはそれを見届けて、膝から頽れると意識を手放した。




 あの子は行方知れずなんかじゃない。殺されたんだ。口減らしに。7つまでは神のうち、なんていって、村じゃ死んだとも思われていない。

 なんでこんなことになってしまったんだ。私が逝くべきだったのだ。あの子を逝かせるべきではなかったのだ。

 今日も私は谷へと来た。あの子を連れ戻すために。あの子を呼ぶために。何度も何度も、何度でも、この喉が張り裂けたってかまわない。あの子の身代わりとなれるのなら、どんなカミにだってこの身を捧げよう。何人だって、私の願いの邪魔はさせない。

 あぁ、帰って来ておくれ。私の愛しい、愛しい――。

 

 もうすでにどれほどの時間がたったのか、分からない。私はあの子を探して、足を滑らせた。体が動かない。このまま私は終わるのだろうか。

 嫌だ。まだあの子を見つけられていないのに、このまま死ぬのは嫌だ。せめてあの子が帰ってこられるように、私はここで呼び続けなければならない。

 どうかわたしを、止まることなく呼び続けられるモノに。

 

 ――あの子だ!あの子がようやく帰ってきた!

 だというのに、あの女が邪魔をした。近頃この谷によく来るあの女。一体なんだというのだ。邪魔をして。許さない。

 

 あの子が助けてって呼んでいる。あの子が力を欲している!

 だったら私が力を貸そう。今の私は、あの頃の無力な小娘なんかじゃない!

 ほうら、気に入らない奴らはこの通り。ついでにあの女も消してしまおう。

 あの子の為なんだ、これは、あの子ために私がやるんだ!私がすべて消して、壊して、あの子のために――

 

 ……だというのに、なぜだろう、あの子もあの女も、私を否定する。そんなはずないのに、あの子は戻ってきてくれたはずなのに。どうして。

 ――あぁ、やっぱり、あの子はもういないんだ。この子は、あの子じゃない。私の弟ではない。だったらこの子も、いや、こいつも、あの女も、消してしまおう。あの子はもう帰ってこないのだったら、なにもかも、無くなってしまえば良い――。

 

 私の中に広がってゆく、暖かいもの。何もかも失くしてしまったはずなのに、私の心の臓は今まさに砕け散ろうとしているというのに。悲しみだけじゃないものが広がってゆく。

 あぁ、そうか、あの女だ。あの女も、悲しそうな顔をしていた。私はあの女から、この子を奪おうとしたのに、彼女は、私を撃つことを悲しんでいたのだ。

 今までの妄執とも言える思いが霧散してゆく。あの子はもう居ない。けれど、私と、あの子の事を今なお思ってくれている人が、居たのだ。

 それだけで、私は少しだけ救われた気がした。




 夢を見ていた。そう自覚しながら、コッコは目を開けた。眦を擦ると濡れていた。

 大理石様の天井と点滴が視界に入る。自分の体は白くて清潔なベッドに寝かされており、横を見るとうたた寝をしている翔舞と湊の姿があった。

 全身がひどく痛む。限界を超えて霊力も肉体も酷使したせいなのは自覚していた。だが、体が動かないような大けがは奇跡的に避けられたようだった。

 ぱちり、と翔舞の目が開く。コッコと目が合うと驚いたように目を見開き、ついで涙を湛え始めた。えっと、とコッコが何かを話そうとする前に、翔舞は大きな声で泣き始めた。湊はその声を聴いて飛び起きると、静かにしなさいと叱り、やはり涙を流しながら、ナースコールを押した。

 

「大きな爆発音が何回かして、その後あの刑事さんがコッコさんと翔舞を担いで降りてきたんです」

 怪異を討伐したあとの状況を、湊はコッコに語った。意識のない二人を連れた和田は救急車を呼ぶと、自身は後始末のための指揮を執ったらしい。湊は二人に付き添い病院へと向かった。

 翔舞はすぐに目が覚めた。問題はコッコだった。3日ほど意識の戻らないままベッドで寝かされていたコッコだったが、その間に警察等の介入を受けることはなかった。翔舞と湊はコッコに付き添い、毎日面会時間ギリギリまでコッコに会っていた。

「その間に一回だけ、あの刑事さんが来ました。幸い、警察側に死者は出なかったみたいです。それと、これを渡してほしい……と」

 湊が差し出した手紙には和田からのメッセージが記されていた。

「怪異討伐の為協力してくれた民間対魔師に感謝する。だが、この市にはテロリスト認定された対魔師崩れが潜伏しているらしい。爆発物を製造しているとの噂もある。速やかに離れることをお勧めする。装備は此処に」

 メッセージと共に収められていた写真には、茶を飲む井上のご婦人と、その店内に装備一式とコッコの愛車であるPS250が置かれている様子が写っていた。コッコはクスリと笑った。

「そうですね、元からそのつもりでしたが、怪異も解決した今、ここから離れた方が良いかもしれません」

「えぇっ!」

「えぇっ、じゃないでしょ。コッコお姉さんにも事情ってモンがあるのよ」

 翔舞が悲しそうな悲鳴を上げる。湊がそんな翔舞を窘める。その様子を見て、コッコは再び笑い、そして告げる。

「大丈夫です。すべての問題が解決したら、また遊びに来ます。約束です」

 そう言ってコッコは小指を翔舞に差し出した。翔舞もその意図に気づいてか、小指を差し出して引っかけた。

「ホントだよ、待ってるから!」

「えぇ、もちろんです。でも、ちゃんといい子にしてないとどうなるかわかりませんよ?」

「が、頑張る」

「湊さんも、翔舞くんの話もちゃんと聞いてあげてくださいね」

「えぇ、もちろん」

 そして二人は再開を誓って、まじないを唱えた。



 暴風に巻き込まれていたにも関わらず、ホンダ製のフレームとエンジンは強靭だった。車体に傷こそ増えたものの、動作そのものは快調である。

 焼け縮れたポニーテールを少しだけ短く整え、バイクにまたがるコッコは次の行き先をどうしようか思案していた。K.A.I.N.T.から送られてきた霊力図はH市姉泣谷以外に異変を示していなかったからだ。それに装備も心もとない。45口径は失った。村田銃も最後の一発を打ち切り、今は文鎮と化している。

 行こうと思えばどこへだって行けるが、とはいえ何も指標がないところだった。

 いっその事東北にでも行こうか。恐山のイタコとその霊的原理について、K.A.I.N.T.の資料では見たものの実際の目で見たことはない。実地での研修は大切だ。これは仕事の一環である――そんな滅茶苦茶な理屈で自分を納得させようとしていると、端末に着信。送信元はK.A.I.N.T.だ。

 次の指示が来てしまった。なんて不謹慎な考えをしながら暗号化を解除して内容に目を通す。通信には、次の場所が示されていた。 

『東京都 渋谷第一触穢区 Cafe Outcast』

「これは……」

 戻ってこい、ということだろうか。とまれ、とりあえずの指針は立った。

 思い入れ深くなるほどに居ついたこの町を離れるのも辛いが、八咫烏隊員としての役目もある。後ろ髪を引かれる思いはあるが、仲間たちと合流したい気持ちもまた確かだ。

 ひゅおう、と風が鳴いた。悲しみを含んだ音だった。だが、どこか背中を押してくれているようでもあった。

「また来ます。今度は、是非貴女ともお話をしましょう」

 そう呟いて、コッコは手を振り、アクセルを開いた。

ハローワールド・ボーイ・アンド・ガール Part1

グロック銃口を倒れてる男の頭に押し付けようとして、やめた。自動拳銃オートマチックは押し付けると不発になるし、なにより僕にとって近づくことはリスクでしかないからだ。白点と白線を男の頭部に向けて一直線になるようにようく狙って、僕は引き金を引いた。ばん。

乾いた音と薬莢が転がる金属音がして、弾はアスファルトをうがった。

「クソッたれ」

ばん、ばん、ばん。何度も鉛を無駄遣いして、ようやく男のこめかみに穴が空いた。僕は一息つくと、やたらにちらばった薬莢を拾い集めた。

この男はシアトル・アンダーグラウンドの研究所から逃げ出してきた実験体。お上カデシュ曰く、サイバネティクスの被検体。エメスやエトロフあたりから流出したデッドコピーを身体に埋め込まれて発狂した成れの果てらしい。脱走した研究所で3人、道中で5人をその強化された反射神経と腕力で殺した。ニューヨークまで逃げてきたコイツをなんとか秘密裏に始末することが、僕の仕事。

あいにくと僕は腕っぷしが強くない。というか弱い。その辺のガキにも負ける自信がある。代わりと言ってはなんだけど、僕は頭がキレる。それもクラッキングの方向で。だからこの仕事が僕に回ってくるのも当然だった。

ようするにこういうことだ――体内にハイ・テクノロジー由来のインプラントを埋め込んで居るからには、無線通信の軛からは逃れられない。整備や制御に必須の技術だからだ。僕はデッキ*1を弄って、街中の電波という電波を調べ上げた。公衆無線の中に紛れる識別信号。予めデータを受け取っていた僕がそれを見つけるのにはそう時間は掛からなかった。

そして……ポン!サイバーサイコのインプラントは僕のアタックで即席の爆竹になった。いくら培養したイルカの筋肉と、ライトファイバーで置換した神経系を持っていようと、目に見えない攻撃は避けようがない。男は動くための機能をほとんど奪われて路地裏に倒れた。インプラント皮膚装甲ダーマルプレート系の技術は無かった。だから銃が通用する。僕はきっちりとどめを刺した。それがさっき。

心拍数を示すデータがフラットラインを示してから、僕はようやくソイツに近寄って、脚でつついた。動かない。よし。後は管理部に連絡して、この死体を運んでもらえば僕のカデシュでの初仕事は無事に終わる。

仕事用のタフなスマートフォンを取り出して連絡を入れる。十分も経たないうちに、カデシュの掃除屋が此処にやってきてここにあった死体の痕跡はすべて消え失せるだろう。アスファルトの弾痕は、ちょっとどうしようもない。僕は仕事の終わったグロックを雑にカバンに放り込む。

 

「こりゃぁ、随分と外しましたね」

数分後、眼鏡で短髪で、人殺し稼業よりはオフィス勤めが似合いそうな男が死体を検めた。その所作は冷静で的確だった。どことなく、樽漬けヴァット・ジョブ*2された特有の人間の所作だったが、僕は言及しないでおいた。確実に息の根が止まっていることを確認したあと、部下のエージェント・スミスめいた男が死体をボディバッグに詰め込んでいた。

「悪いね。これまで一発で当たった試しがない」

「それで殺し屋を?」

短髪男が訝し気に聞いた。当然の反応だろう。

「チームだった。僕は頭脳担当。銃を撃つ、殴る、切る。それは他の奴の仕事だった。――もちろん、僕は殺してないなんてナメたことを言う気はないよ」

それに、と言って僕は鞄からコンピュータを取り出した。10インチタブレットよりはすこし小さいくらいのサイズ感だけど、厚みは電話帳みたいなコンピュータ、これが僕の相棒の“デッキ”だ。

そして僕はARO*3を背面のプロジェクタから出力した。投影された幾何学的な物体はぐるぐると何かを読み込むような動きをした後、今回の事件のデータを出力した。

「これが僕の本職。その死体に入ってたデータ。抜き取っておいたよ。最も、君達には不必要かもしれないけれど」

なるほど、と男は言って、投影されたデータに目を通した。

「こちらのデータは」男が言うのを遮って僕は続けた。

「もちろん、そっちに渡す準備は出来てるよ」

「では、今すぐにでも」

僕はデッキを開いてキーボードを叩いた。左目に付けたAROコンタクトレンズがモニタとなって、デッキの一連の動作がGUIで表示される。カデシュが利用している専用の暗号化メッセージアプリを通して、データの送信は無事に完了した。

彼は自身のスマートフォンを確認すると、僕に5枚のコインと指輪を差し出した。僕はそれを受け取ると、指輪の内側を覗く。26000という数字が刻まれていることを確認して、それを右の人差し指に嵌めた。コインはポケットにぞんざいに仕舞った。誰もこれが1枚1万ドル程の価値のあるものだとは思うまい。

男が言った。

「それでは、これで晴れて貴方も我々の一員です。ようこそ、ホテル・カデシュ・ニューヨークへ、ミスタ・ベルウッド。」

男は微笑んだ。完璧にコントロールされた、仕事人としての笑み。高級ホテルの名ホテリエのような顔を浮かべながら。

実際にそれは当たらずとも遠からず、だ。ホテル・カデシュ。ニューヨークに本店を構える、老舗高級ホテルと暗殺組織の二つの顔を持つ巨大組織。彼はそこから送り込まれた管理官だ。

「よろしく、ミスタ・ジョンソン」

僕も同じように返した。握手はしなかった。握手は武装解除の意味がある――なんて話があるけど、あれは現代じゃ通用しない。最先端エッジのプロは握手をしない。

「ところで」彼は切り出した。

「その格好は趣味で?それとも実用的な意味が?」

その恰好という意味は僕にはすぐ分かった。長いブロンド、150くらいの身長、女の格好。というのに登録した情報では男。どういう扱いをするべきか決めかねている様子だ。

人殺しをあっせんしているというのに、妙なところで気を遣うな、と僕は笑いをかみ殺した。僕ははっきりと言った。

「趣味だよ。僕は男だ。でも、似合うだろ?」

 

この後はどうするのかと聞かれたので、適当に探した部屋にでも帰ると答えて別れた。

しばらくは大通りを道なりに歩くだけだ。駅まで行ったら地下鉄に乗り、乗り換えを挟めば今日の宿がある。懐も暖かくなったことだし、肩慣らしにはちょうどいい仕事だったもんだから、僕はわりかし上等な機嫌だった。

チチチ、と嫌な感覚。ハッカーがこちらを見ているときのソレに近い、電子的にスキャニングされている時の感覚。僕は直感的に路地の先、通りの反対の方を見た。

不思議な女が居た。黒髪のショートカットが夜の街灯を受けて、蒼色に煌めく。小柄な割にその雰囲気は餌を与えられていない犬みたいな女だ。そんな女がこちらを見ていた。僕は鞄に手を突っ込んでグロックのグリップを探した。見られたことよりも、女の言い知れぬ得体のなさが、僕を突き動かした。剃刀のような女だった。

つい癖で奥歯を舌でなぞる。ようやく右手がグロックのグリップを捉えた。引き抜こうとしながら、鞄から顔を上げる。

女の姿は消えていた。



不気味な女ではあったけれど、それから何があると言うわけでもなかった。僕は居心地の悪さを感じて、出来るだけ人通りの多い道を、出来るだけ複雑なルートを選んで、結局アパートメントには帰らなかった。安宿を探してその一室を新たに取った。待ち構えられていたら、ということを考えるとそう易々と帰るわけにはいかない。

古くて汚くはないが綺麗とも言い難い一室のベッドに腰を掛けて、僕はタバコの封を切った。紙巻の先をライターで炙りながら息を吸って、そしてすぐに吐いた。

それから、タバコを吸いつつ僕は今日の仕事のデータを纏めてから、例の女について調べた。調べる方法は簡単だ。カデシュのデータベースを漁る。幸いにも先ほどの仕事で認められたからか、サーバ自体へのアクセスは許可されていた。仕事の早い短髪男に感謝しながら、ニューヨークで活動する殺し屋の情報を絞り込む。が、該当するものはなかった。

こういう時は無理せずさっさと諦めるに限る。僕は買ってきたラップサンドとバドワイザーを胃に流し込んでから、ベッドに沈んだ。

 

がしゃん、という物音で僕は目が覚めた。ドアノブに引っかけていた灰皿が落ちる音。元から完全な安全なんて確保できるわけがないと思っていたから、仕掛けていたトラップに助けられた。靴も履いたまま寝ていたぼくは、そのまま物音を立てないように起き上がると窓をそろりと開けた。ここは地上二階。どんくさい僕が飛び降りたらまず間違いなく脚を挫くし、最悪頭から落ちて落下死だろう。とはいえ、僕に刺客とやりあうという選択肢はない。なぜかって?僕はそんな筋肉マンマッチョじゃないからだ。

。僕は鞄の中から小さいホッケーパックのようなものを取り出した。それを窓から落とす。ぽふん、という音がして、地面にエアバックが開いた。

意を決して窓から飛び降りる。と同時にドアの壊れる音がした。

「ぐぇ」

自分でも情けなく思う声と共に、エアバックの上に落ちる。なんとか打ち身程度で済んだ。エアバックはすぐにしぼんで用を成さなくなった。すぐさま逃走に移行する。

窓から覗く顔と目が合った。例の剃刀女ジレット*4。暗闇の中でぼんやりと光る目は、僕と同じAROコンタクトだろう。

銃でも撃たれたら最悪だ。人間は銃弾を避けられるように出来ていない。僕は祈りながら走り出した。

幸いなことは女が銃を撃たなかったこと。悪いことは、その女が躊躇なく二階から身を躍らせたことだ。軽い音が背後に聞こえる。

「ファック」

思わずFワードを口から漏らしながら。後ろをちらちらと確認しながら走る。と同時に、ヘアアクセサリ型のDNIが僕の思考を読み取って、それをデッキに伝える。捜索コマンド。相手がARO技術を利用しているなら、そこが突破口になるかもしれない。デッキのエージェントソフトにクラッキングを任せて僕は路地をめちゃくちゃに走った。

僕は運動神経が悪いけれど、走ることだけはそれなりに出来た。とはいえ、それは一般人基準での話。裏社会の基準では下の中くらい。つまるところそれは、追いつかれるのは時間の問題だということだ。

どん、と爆発するような音が聞こえる。女が踏み込んだのだろう。僕はというと既に走り続けてヘロヘロで、とてもじゃないけど逃げられるような状態じゃない。捜索コマンドの進捗は7割。女のサイバネを焼くのはまだ無理だ。

走りながらグロックを弄って引き抜く。振り返って撃とうとして、眼前に女。

「ッ!」

引き金を引く。と同時にその銃口が振り払われた。銃弾が明後日を向いて火を噴いた。次の瞬間、女の拳が僕の腹にめり込んだ。吹き飛んで路地に転がる。グロックはどこかに転がっていく。さっき食べたラップサンドとバドワイザーに感動の再開をしそうになるのを耐えながら、立ち上がろうとする。そんな僕の脚を女は捕まえると、ぐい、と投げ飛ばした。背中から壁に激突する。肺から酸素が逃げていく。

「ひ、どいことするじゃないか。何が目的だい」

女は僕の言葉を無視した。ゆっくりと歩いて近寄ってくる。ようやくそこで姿がはっきりとした。センサ類を詰め込んだであろうヘッドセット。全身はタイツめいたサイバー・スーツ。走査線が全身を走り、女の一投足を検知し、強化しているのだろう。

そのまま僕の胸倉を掴んで引きずり上げる。視界の端の捜索コマンドの進捗、81%。

僕は覚悟を決めた。奥歯に仕込んだハッチを舌で跳ね上げて、中のドラッグを吸引する。ばちりと脳髄に響く感覚。

僕は女の腕を掴み返した。反抗とも言えないほどに弱々しい手つき。女は抵抗になんの感慨もなく、そのまま腕を振りかぶって、僕を殴りつけようとする。

「遅いよ」

僕は言った。女が少しだけ眦を動かした。

次の瞬間、僕は転じた。彼女のサイバー・スーツの中のマトリクスへ。



マトリクス、サイバー・スペース、メタバース、電脳。そんな風に名付けられた疑似的な空間に僕はいた。ハッカーと呼ばれる人種が口にする造られた異空間は、ハッカー自身の脳髄を通し翻訳コンパイルされ、認知される。その空間にはハッカー自身の個性が現れる事もあるが、多くの場合海中に似たような空間の形を取る。

僕のマトリクスはまさしく海中だった。実のところ僕はリアルな海にそこまで執着はないのだが、とにかく海中だった。上も下も分からないのに、光だけは浅瀬のようにいつまでも輝き続ける海。

本来、ハッカーはマトリクスを感じたところで、そこにフルダイブするような輩は少ない。

市井の機器はアニメやゲームのように発展していない。エメスやエトロフ、その他後ろ暗い先進技術を使っているような輩でないと、この空間を感じられても「没入」することはできない。ハックにマーシャル・アーツ的な神秘を感じて、LSDでもキメながら一心不乱にモニタに向かうようなハッカー・カルトの連中なら別かもしれないが、それも数少ない例外と言っていい。

その数少ない、「後ろ暗い先進技術ブラック・テクノロジー」を持っているのが、まぁ僕なワケだが。特殊な薬剤を用いて脳幹に接続された機器をKICKして、物理的に接触しているあらゆる電子機器のマトリクスにアクセス出来る。「電脳の予言者サイバー・マンサー」と僕の脳味噌を弄り回した野郎どもが言っていた、僕の切り札だ。

 

あまり見たくはない空間の中で、僕は一つ伸びをした。こうしている内に現実世界の僕はボコボコに殴られている可能性もあるが、ミリセカンドの世界で大慌てしたところでどうしようもない。現実には5秒くらいしか効力のないこの能力だが、この空間内での体感時間は3000秒を超える。だったら伸びの一つでもして気分を入れ替えた方が効率が良い。

やたらと煌めく海中の中に、巨大な建造物があった。正方形を積み上げたローポリの雪だるまのような白亜の建物だ。おそらくアレが、あの女のサイバー・スーツのセキュリティを司る”イメージ”だろう。

短く息を吐いて、僕は腕を指揮者めいて振った。空間が歪み、形を生み出し、やがてデフォルメの効いたサメのようになった。全長は2mばかしで、あまり大きいとは言えないが、それが三匹。

「やれ」

僕が短く言うと、3匹のサメが三位一体となってバレルロールを描き、雪だるま目掛けて飛んで行った。そしてその顎を開き、外壁に接触。数瞬の拮抗の後、噛み砕く。サメ達は飢えてようやく在りついた人肉に集るように、その外壁を貪り始める。

この空間では”イメージ”がモノを言う。本来必須なハズの厳密な数式めいたプログラムは、脳髄を通した再翻訳デコンパイルの速度には追いつけない。僕にとっての”攻撃”のイメージはどうやらサメが適任のようで、この空間に入るたび毎回世話になっている。

外壁を食い荒らし、人が余裕で通れる程度の穴が空く。僕はそっちに向かって泳ぎ、内部へ進入した。外壁、つまりセキュリティを突破したサメ達が、僕の後ろへ続いた。

予想された反撃は一切なかった。僕は訝しんだ。外から攻撃されるより、中にあるものをひたすらに閉じ込めて、一歩たりとも外へと逃がしたくないような、そんな欲望を感じる。この空間に入り込むよりも、出ることの方がよっぽど難しいだろう。だから僕は、そんな意志で記述されたプログラムを念入りに破壊していった。面倒になるより前に破壊しつくせば問題は起きない。

道中で回収したプログラムデータを分析、マッピングしながら、研究所めいた廊下を模した空間を抜け、最奥にたどり着く。衛生的を通り越して生理的嫌悪を感じさせる白一面の部屋の中央には、不似合いな牢があった。

その中には女。例の襲撃者とおなじ容姿をしていたが、サイバースーツではないし、ヘッドセットも、輝くAROオブジェクトもない。素っ気ない下着だけの女は目を閉じ、動かない。いや、動けないのだ。四肢という四肢に枷を嵌められ、その鎖の先は錘か、牢に直接繋げられている。

あとはひとつ、この牢と女を食い破れとサメ達に命令すれば僕の勝ちが見えてくる。現実世界のサイバースーツを破壊できれば、詰みの状況から若干不利な五分くらいに持っていける。あるいは、スーツに直結されている女のニューロン。そこをずたずたにしてやれば、女はもう二度と思考することも立ち上がることも出来なくなるだろう。

僕は手を振り上げて、それから振り下ろそうとして――そこで、女が目を開いた。AROコンタクトのない、生身の目だった。だが、それは光を写さない死者の目だった。自分の運命をどうしようもないと諦めきっている目。

僕は腕を振り下ろした。サメ共が飛び掛かる。




現実世界に帰還した僕を迎えたのは落下感、次に迎えてくれたのはコンクリートだった。

「ぅ、ぐえ、ぁ……クソッたれが」

英国紳士らしく毒づきながら鼻から垂れた血を拭う。眼下には座り込んだ例の女。全身を覆うサイバー・スーツの走査線、ヘッドセットの点灯、AROコンタクトの光は消えている。僕がクラックしたからだ。自分を守るものをすべて剥ぎ取られた女は、呆然としていた。僕はその女を尻目に、さっき振り払われたグロックを拾った。吐き気がする。きっと内臓にもダメージが入っているのだろう。サイバー・マンサーの後はいつもこうだ。そもそも生身で電子的に接続などという事象自体がふざけているのだ。そのふざけた事象を発生させる為の代償は強烈で、だからあまり使いたくはない。

女がこっちを見た。電脳で見た時と同じ、なにも写していないような目をしていた。自分の命運を悟ったのか、あるいは――その想像を振り払って、僕はグロックをプレス・チェック。滅茶苦茶な撃ち方をした割に、40年以上の信頼を得てきたその銃はしっかりと次の弾を薬室に送り込んでいた。

銃口を女に向ける。トリガーに指を掛ける。女はなんの反応もしない。引き金を絞る。反応なし。引きしろがなくなって、ハンマーが落ちる寸前、その瞬間ですら、女は反応しなかった。

僕は指を離した。そして、グロックをバッグに放り込んだ。女の表情が動いた。わずかな変化だが、それは驚きに見えた。

「行きなよ、僕の気が変わらないうちに」

女はよろよろと立ち上がると、壁を支えに向こう側に歩いて行った。僕は彼女の背中を見続けていた。

 

とにかくくたびれていた僕だが、諸々の痕跡を残したまま去ることはできない。落ちた薬莢を拾い、重い体を引きずって安宿に戻り、酔っぱらって窓から落ちたと説明し、そして修理費として法外なチップを払うことになった。ドアに関してはモメたが、安宿故かこういったトラブルには慣れていたのが幸いした。その代わり、ここで夜を明かすことは出来なくなった。

むかむかする胃を抱えながら――ああ、これがアルコールによるものだったらどれだけマシだったか!――メトロかバスで上手いコトアパートメントに帰れないか検索して、両方とも長い時間待つ事になることを知った僕は、イエローキャブで帰ることに決めた。これも出費だ。しかも経費で落ちない。

黒人や移民のために作られた無機質なアパートメントの一室が僕の住まいだ。殺し屋というと贅沢な暮らしを思い浮かべるかもしれないが、あいにくとそれはゴッドファーザーの見すぎだ。セキュリティは最小限、周りの住人もとてもニューヨーカーには見えないが、それでも僕はこういった暮らしの方が性に合う。そもそも先立つものが大してないのに、そんな暮らしをする気にはならない。

とにかくやるべきことは明日やろう。血やその他諸々で汚れた服を適当にそのあたりに脱ぎ散らかして、僕は堅いマットレスに沈んだ。

 

翌日、太陽が高くなったころに目が覚めた僕は、ベッドに入ったままスマートフォンを確認する。ニュース欄は最近就任した大統領に関する話題と、怪我から復帰した日本人野球選手の活躍で持ち切りだった。昨日の事件は二つとも話題になっていないようだった。カデシュの情報統制に感心と、ひとまず大事になってない安心を覚えて、スマートフォンの画面を切る。水でも飲もうとして、切らしていたことを思い出した。仕方ないので近くのセブンイレブンまで買い出しに行こうと適当に身支度を整えて、ドアを開けた。

昨日の女が、ドアの隣で蹲って座っていた。黒とも蒼とも取れるショートカット。アジア系にも見えるが、確信は持てない不思議な雰囲気。人間のサラダボウルなニューヨークにあってなお目立つ全身タイツのような恰好。空いたドアに注意が向いたのか、ばっちりと僕と目があった。

一旦ドアを閉じた。がちゃり、と鍵をかけなおして、昨日そのまま放り投げたバックからグロックを掴みだして、再度ドアを開けた。女はまだ同じようにそこに居た。そりゃ、十数秒でわざわざ動かないよな、なんて間の抜けた考えが頭をよぎった。

ただ、女はわざわざこっちをつけてきたようではなかった。その証拠に、こっちに大してなんのアクションも取らない。グロックを握っている自分がバカらしくなって、思わず声をかけた。

「今から僕は買い出しに行く。その恰好じゃ目立ちすぎるから、僕の部屋で待っててくれないか?」

 

セブンイレブンで買ってきた全粒粉のハムサンドとPB&Jサンド*5、それからボルヴィックを2本。机の上に置く。

「昨日から何か食べた?」女は首を横に振る。

「じゃ、どっちがいい?」女は選ばない。

「じゃ、僕はこっちで」ハムサンドを選んでボルヴィックを投げ渡し、椅子に座る。女はベッドに座らせた。自分の分の水を開ける。半日ぶりの水分が喉を潤す。女の様子を伺う。手を付ける様子はない。代わりにこっちの様子をじっと伺っている。居心地が悪い、と一瞬思って、気づいた。

「ん」

飲みかけのボルヴィックを差し出す。女は手を伸ばしてそれを受け取ると、ちびり、と飲み始めた。

スラム出身ならよくある話ではあった。善意の誰かからの差し入れに、殺鼠剤やらガラスの破片やら、そんなモノが入れられていて、一口食べればのたうち回ることになる。”善意”というのは、スラムのガキやホームレスに向けられたモノではない。その土地を”浄化”しようとする”善意”だ。

おそらく、目の前の女も同類なのだろう。そうと分かれば話は早かった。ハムサンドを半分にちぎって渡す。もう半分は自分で食べる。女は差し出されたそれを受け取ると、まだ警戒の空気を出しながらも、僕が食べたのを見て一口づつ食べだした。

普段のさっさと詰め込む食事よりも3倍程度の時間を掛けて食べ終えた。ゴミを捨ててから、再び女と相対する。グロックは一応、手元にあるけれど、とてもじゃないけど使う気にはならない。

「で、なんで僕の家に来たのさ。もっかいやろうってンなら、お断りだけど」

女は首を横に振った。どういうつもりだ?

「失敗したから帰るところがない、なんてヤツ?」

今度は縦に首を振る。相変わらず喋ろうとしないけれど、これには納得。

「もしかしてだけど、喋れないのかい?」

これに関しては、首をどちらにも振らなかった。喋れないのか、あるいは喋らないのか。とまれ、彼女から聞き出すことは非効率だな、と結論付けた。僕はインターネットの魔神じゃない。

「これから昨日奪った君のデータを全部確認する。見られたくないモノもあるかもしれない。けどまぁ君は敗者だから、受け入れてくれ」

そう言って僕は机に向かう。現行型のモニタが3枚据え置かれた空間は、一応僕の本拠地でもある。デッキからデータを送信し、データ解析エージェント・ソフトに掛ける。その間も、女に動きはない。ただじっと、何かを言われるまで人形めいてそこに居た。

プログレスバーが完了を示して、ウィンドウが出る。まずは女のプロファイルを確認しようとして、そこで手が止まる。

名称:被検体20号、それ以外の情報は身長と体重くらいなモノだ。つまりこの女には、名前が番号しかない。

手を動かし直す。ミッションレコードを確認。カデシュ会員を一人殺して、その番号を奪ってくるというシンプルなものだった。僕を狙うのは道理だろう。いかにも弱そうだし、あの現場を見ていたとしたら、腕前も大したことが無いのも知れる。

はぁ、とため息をついた。親玉から殺してこいと言われたはいいものの、それに失敗。僕が昨日サイバー・スーツを再起動できないようにプログラムをぐちゃぐちゃにしておいたせいで、帰る道もろくに分からず、ただターゲットだったヤツの家の場所だけは朧げに覚えていたから、ここにたどり着いた、そんなところだろう。

どこから情報が漏れたかは気になった、が、カデシュ経由ではないだろう。わざわざ僕を会員として引き上げて、ぶっ殺させて会員番号を奪わせるなんてまどろっこしいことをする必要性はあまり思い浮かばない。となれば、親玉あたりには元NSAか、GCHQか、いくつかのAPTグループには攻撃を仕掛けた事もあったし、意趣返しか――。

そこまで意識を飛ばしかけて、ふと女の方を見る。相変わらず茫洋とした視線、捨て駒のように扱われていたことに怒りの感情はおろか、なにも感じていないような態度。いや、感じていないわけではないのかもしれない、ただ、それを発露させる方法を知らないのだろう。

腹が立つ、女の態度に僕は耐えかねた。立ち上がるとクローゼットから適当なスウェットとパーカーを女に放り投げた。女はきょとんとする。

「やり返しに行こう」

僕はニヤリと笑った。女はまだピンと来ていないようだった。

*1:ハッキング用コンピュータ。中でもクラッキングに特化した攻撃的な物を指す。

*2:神経・脳等にインプラントが施された人間のこと。培養槽で生まれたとされることから。元ネタはサイバーパンクTRPGシャドウラン

*3:Augumented Reallity Object 拡張現実物体、いわゆるホログラム

*4:サイバネティクスによって強化された女性のこと。剃刀の切れ味のように戦闘向けに調整していることの比喩したもの。男性の場合は剃刀男レイザー・ガイ

*5:ピーナッツバター&ジャムサンド

ホテルカデシュ合同誌「NPO法人すぎのき会 代表理事 五十鈴晃彰の場合」あとがき

Yo men Bro、T00です。

あけましておめでとうございます(大遅刻)。昨年はお世話になりました。

去年もいろいろありましたが、やはり個人的に最大の出来事は年末。

コミックマーケットでこちらの同人誌、『bonum noctis』*1を頒布しました。

booth.pm

 総勢参加者10名!なぜかだめがねさんも巻き込んで(!?)完成したホテルカデシュの非公式合同誌です。中身はイラストや漫画、小説等が収録されています。

 参加者も豪華!

 最近カデシュ関連の幻覚を見まくっており、超筆が早くイラストを描きまくっている鳥原さん!

 複数回公式映像に出演している「マスター」を演じ、本業はガチで漫画家の縛さん!

 メタカル最前線編集長にしてカデシュ記事を書きまくり、最近はカデシュ二次創作も執筆し始めた東雲りんさん!

 公式イラストを多数手がけ、今回公式資料集レベルの情報を出してきたジカウムさん!

 公式スピンオフイベント「ダイノダイナー」でキャストを務め、カデシュフェスのコスプレ等を担当したCatrentさん!

 リアルカデシュバッジやコインの制作に携わり、参加者としても最古参レベルのまいんどうずさん!

 同じく最古参レベルの参加者で謎のメイドをゲストとして演じる、カデシュの生き字引的存在のシェーリングさん!

 ヤスナカ推し筆頭クラスのファンで、カデシュのバーチャル即売会もやったことがある暁人さん!

そんな中に一人、太山 史敬という人物の名前があります。カデシュに詳しい方はこう思ったでしょう。”こいつ誰だよ”と。

 

 今回はそんな太山氏と、彼の書いた「NPO法人すぎのき会 代表理事 五十鈴晃彰の場合」について話します。

*1:ちなみにラテン語で、翻訳すると「良い夜を」です。

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